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初デート
それからすぐ藤宮と2人で遊びに行く事になった。学校帰りにみんなで遊びに行ったり、2人で帰る事はあっても私服で休みの日に会うことは1度もなかった私達。相手がゲイだとかそんなものは関係ない。私は私の恋焦がれる男の子とデートをする。
「うー何か緊張するー。お腹痛い」
足元のソワソワ感と、落ち着かない体のフワフワ感。梅雨入りしたと天気予報のお姉さんは言っていたのに、ジリジリと痛い太陽に思わず目を背ける。何というか、汗かいて顔がテカテカとかは避けたい。お天気お姉さんはサラッとしてキラキラの笑顔を振りまいていたけれど、思春期の肌の脂量を忘れないでほしい。
「あっ。藤宮だ……」
こんなに多くの人が居るのに、私は私服姿の藤宮に一瞬で気付く。外気とは別に身体の体温が少し上がる。どんな顔をして待っていたらいいのか分からずに、藤宮が来る方向に背を向けた。
藤宮の視界に私が移る瞬間が見たいけど、あと3メートルの距離をじっと待てるほど、私の心臓はこの大騒ぎの鼓動に耐えられそうもない。
斜め後ろに藤宮を感じながら、辺りを少し見回す演技をした。
「早瀬っ! 悪い! 待った? 」
「えっ。あ、あぁ藤宮。うんん! 全然。私も今来たとこ」
しらじらしい反応。いつもの藤宮……でも……なかった。何その格好いい感じ。私の目線に気付いた様で藤宮は自分の服を見回した。
「今日、彼氏役だから格好つけた。変? 」
そう言ってグレーのシャツを少し手で開いて中の真っ白なTシャツを見せる。細身のデニムに靴はハイカットのスニーカー。服装うんぬんより、その髪型。いつもぽさっとした感じのくせに、後ろに流して妙に色気がある。首元にはシルバーのネックレスに、すっとした指には少し太めの指輪。
お洒落すぎる。慣れすぎている。恐るべし年上彼氏! ユウ君。私は心の中でユウ君を崇めた。
「……うんん! か……良いと思う。てゆーかお洒落。ねっねぇ! ねぇ……わっ私こそ何か……釣り合ってなくない? 」
アクセサリーを身に付ける習慣もなく、ただのTシャツとショートパンツにスニーカー。髪だってクシでサッとしただけで、何もしていない。危機感も緊張感もない1時間前の自分を呪いたくなった。
「あはは。そんなことない。可愛いよ早瀬」
くしゃっと笑った藤宮。可愛いとさらっと口にして言われた「早瀬」は今までにない特別な呼び方に思えた。
「あ……りがと」
無性に男らしさを感じて胸がドキドキしたけど、藤宮は女の私には興味がない。これは練習で藤宮にとっては寂しさを紛らすだけのもの。意識はしない。
「今日、暑いしさ、初めてのデートだし映画なんてどう? 」
「えっ。あ、うん。いいよ」
「良かった。早瀬が好きって言ってた魔法シリーズの映画。新しいやつ始まってるだろ? それ観に行かない? 」
「え! うん! うん! 観たかった。えっ? 私好きって言ったっけ? 」
「あはは。俺も魔法使いだったりして」
藤宮はそう言って魔法をかける様に私に向かって指先をくるんと回した。違う魔法にかけられそうだと歯を食いしばり天を仰ぐ。
世界的にヒットしている魔法映画のシリーズの前作が公開されたのは中学生のとき。まだ藤宮とは会っていなかったのに、いつ話したか覚えていない映画の話を覚えて居てくれた事が嬉しかった。
恋人がいた人はこんなにも余裕があって、呼吸をする様に、当たり前に人の喜ぶ事が出来るのだろうか。
それは藤宮の元々の性格なのかも知れないけど、普段よりずっと大人びて見えて、ずっと男らしかった。
告白をしてから半年。隠していた恋心が目を覚ます。気付きたくない胸の高鳴りが「ここに居るよ」と私に呼びかける。
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