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告白と告白
「……ずっと好き……だったんだ」
同じクラス。何となく一緒にいるグループの1人。藤宮理久。私達は降りる駅が一緒だった。そのせいか、いつの間にか私にとって特別な存在になっていた。
「……え? 」
藤宮の足が止まる。白眼の綺麗な目がいつも以上に大きく開いて、桃色のグミみたいな唇が少し開いたまま動きが止まる。
「……あの……その。ごめん。急にびっくりしたよね」
背の高い私とあまり背の高くない藤宮の視線はいつも近いけど、こんな近距離で見つめられたのは初めてで私は慌てて下を向いた。
心臓は爆発しそうな程、暴れ回っている。口から飛び出るなんて表現が本当にぴったりで、まだ寒い季節なのに顔だけが火を噴きそうな程熱い。
「ごめん。早瀬の気持ちは嬉しいんだけど俺……彼氏がいるんだ」
もう3学期も終わる。断られてもクラスが変われば気まずく無いし、そんな逃げ道を確保して私は告白した。
「えっ。あっ。そっ……そっか。彼氏……いたんだ……えっ! えっ? かっかれ……し? 」
「うん。彼氏……」
頬を通り抜けていく冷たい風も、凍り付くような空気も、藤宮が照れくさそうに頬を赤らめると吐いた息の白さもチョコレートの様に甘く感じた。
ブラックコーヒーくらい苦い出来事のはずなのに。
「……彼氏ってその……」
恋をしている人の顔。柔らかくて輝いていて、幸せに満ち溢れている。藤宮は私の知らない顔を持って他の人に恋をしていた。
「うん。男の人と付き合ってる」
「そう……だったんだ」
「みんなには言ってない。やっぱり偏見とかもあるし」
戸惑いのある顔。だけど曇りのない瞳が私を離さない。
「……私は……良いの? 」
「俺……早瀬に好きって言ってもらえて嬉しかった。早瀬の気持ちに対して嘘はつきたくなかった。それに早瀬はそう言うことで偏見持ったり、言いふらしたりしないと思ったから……」
乾いた空気が藤宮の髪を流して、残るのは藤宮の真っ直ぐな心。いつも穏やかなのに芯があって、揺るがない熱を心に秘めている藤宮が私は好きだった。
「……そっか」
藤宮の真っ直ぐな気持ちを受け流す事は出来ない。ずしっと響く。
「……ごめん。無神経だった……よね」
「えっ? あっ。うんん。本当のこと言ってもらえて嬉しかった。あ……りがとう」
藤宮には好きな人がいた。それがまさか男の人でどうやっても超えられない壁を持っていた。傷付いたし辛いけど、ベジタリアンの中に肉肉しい私が紛れ込んだような「お呼びでない」感が心をドン底に落とさずに済んだ。
「誰にも言えなかったから……良かった。あ、いや、あ……やっぱり無神経だよね。ごめん」
藤宮は心苦しそうな顔をしていて、藤宮は何も悪くないのに私は申し訳なさでいっぱいになった。グループ内の恋って失敗すると結構気まずくて、あと先考えなかった自分を少し恨んだ。
「いっいいの! いいの! 私も何かその……すっきりしたと言うか。そ、そう! 私、その相談とか聞くよ? あ、その……恋愛経験はそんな無いんだけど……あ、でも、男の人の気持ちをどこまで理解できるかは分からないけど、ほら! 誰にも言えないよりはさ、喧嘩したとか、何か愚痴? みたいのとか聞けたりもするし」
恋愛相談? 恋愛もろくにした事ないのに? 好きな人に振られたのに、その人の恋愛相談を聞くなんて、思春期は時に変なことを口走ったり、行動をしてしまう病かも知れない。でもこのまま藤宮と話せなくなるのは嫌だった。
「えっ。あ……ほ、本当? 俺……本当に誰にも相談できなかったから……話聞いてもらえたら嬉しいかも……」
「うん。うん! 聞く! 聞くよ! あの、じゃじゃあ、その……これからも友達……でいられるかな? 」
「俺の方こそ。早瀬が嫌じゃなければ友達で……いて欲しい」
藤宮は少し悲しそうに笑った。こんな顔が見たかった訳じゃない。好きになってごめんって言いかけたけど、それはまた藤宮を苦しめてしまいそうで飲み込んだ。告白ってうまくいかないとお互い辛いって知った。
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