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進学しても私達はクラスも変わらず、友達として前よりずっと仲良くなっていた。
気を遣ってか藤宮は惚気こそ言わないが、ちょっとした喧嘩とかプレゼントはどういうのが良いかとか、本当に女同士の親友みたいになっていった。
背も高くてロングヘアーなんて似合わない私と、色白ですらっとして可愛らしい顔の藤宮。お互いの中間地点で良いバランスが出来ていたと思う。
私の恋心とは言うと、相手が可愛い女の子だったら嫉妬に狂っていたかも知れない。だけど年上の男の人と聞いて、なぜだか大好きなBL漫画を間近で見ている様な感覚で意外と居心地が良かった。
何より、藤宮とその彼は藤宮が中2の時からの付き合いらしくて高校で知り合った私なんかが入り込む余地がないのだと潔く思えた。
「あーあっつう。まだ6月だよ? 梅雨はどうした? 雨は? 雨。あめ……アメ? あ、藤宮。この間UFOキャッチャーで取ったチュッパチャプス後でくれるって言ったのに忘れてたでしょ? 」
「すごい連想と発想力だな」
「ダブルミーニングってやつですよ」
「使い方を間違ってるぞ。それは同音異義語と言うやつです」
「まぁまぁ難しい話は置いておいて。さぁチュッパチャプスをおくれ」
「早瀬がチェリー味は嫌だって言ったんだろ? だから俺が食べた」
「何か損した気分ー」
「いやいや。何か記憶のすり替えみたいになってる。早瀬がコーラ味以外のチュッパチャプスはチュッパチャプスに在らず! って言ってたんだろ? 」
藤宮のツッコミは前よりずっと遠慮がない。いつもニコニコ笑ってて、だけど言いたい事ははっきりと言う。心地良い会話が学校から駅まで続く。
「飴ちゃんちょうだい! 飴ちゃん! 」
「急に関西の人みたいな言い方……」
「知ってる? 飴は大事なコミュニケーションツールなんだよ? 関西の人は心優しいから、アメを常に携帯していてね。それをみんなに配る訳だよ。それなのに藤宮はまさか人にあげると言った飴まで自分で食べてしまうなんて……」
「あー! もう分かった! 分かった! じゃあチュッパチャプスのコーラ味買ってやるよ」
藤宮は推しに弱い。私のマシンガントークに呆れ果てて、大体最後は折れてくれる。金銭が絡むと若干カツアゲみたいになるので、明日はちゃんとジュースを奢ってやろう。
「んー。今はガリガリくんのコーラ味でもいいなぁ」
「いやいや! 飴ちゃんはどこ行った? 関西人の心を忘れたんか? 」
「カンサイ? ワタシ……ウマレモソダチモ……カントウ。カンサイ? シラナイ。ガリガリ……シッテル」
「関西の人に謝れ。飴を紙袋いっぱいに買って、最大限にコミュニケーションツールを利用しろ」
そう言って結局、ガリガリ君のコーラ味を買ってくれた藤宮は次の日、目を真っ赤にしていた。
「ちょっ……ちょっと! 藤宮? 何その目。真っ赤……」
「あ……あ、うん。ちょっとね」
「……ユウ君と何かあったの? 」
ユウ君は藤宮の彼氏の名前。藤宮は小さく頷いた。さすがにそのまま学校に行って、周りのみんなが何も触れずにいる事は難しい。いつも一緒にいる由奈や康正がこんな顔をしている藤宮を放っておく訳もないし、色々聞かれても同性の恋人がいることを隠している藤宮は心苦しいだろうと思った。
「藤宮……うち来る? うち近いし、外だと補導されたりするかも知れないし。その目じゃ……目立つし、今なら親居ないからさ」
「え……でも学校は? 俺はいいけど早瀬まで……」
「いいの。藤宮を放っておけないよ! 私たち友達でしょ? ほら! いこっ」
色白の藤宮の目の周りは真っ赤で腫れていて、それでも無理して笑っている藤宮を助けてあげたかった。
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