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自分の部屋は汚くて見せられる状況じゃなかったから、リビングで話を聞くことにした。ママに掃除をしなさいと怒られて、死んだふりをしていた事を後悔した。
藤宮は少し間を置いてから、小さく溜息をついてから口を開いた。
「……実はさ。少し前にユウ君とは終わってたんだ」
「えっ? え……藤宮そんなにユウ君の話しないから気付かなかった」
「ユウ君……この春から社会人になってすれ違いと言うかさ、何かその前からだけど少しずつ変わっていって。正直、一緒にいても苦しいことばかりで……」
「……うん」
「俺から別れを言ったんだけど……どっちからと言うかユウ君が俺から言って欲しそうでそう言ったんだ。それで昨日……荷物とか返すのに会った時……結構酷いこと言われてさ。数年間の思い出が全部汚された気がして、何か……涙が止まらなくて。情けないよな男のくせに」
「……そんなことないよ。悲しい出来事に男とか関係ない。でも……少しだけ意外。藤宮から聞いてたユウ君はそんな酷い言葉なんて言わなそうなのに」
言葉を選びながら藤宮の話を聞いた。自分の思い出を好きな人と共有してきた藤宮は私よりずっと大人で、それを失った藤宮は誰にも言えずにずっと辛い思いをしていたんだろうと感じた。
「俺もそう思ってた。ユウ君に言われた言葉たちが今はまだ消化できてなくて……うまく言えないけど、恋人だと思ってたのは俺だけだったみたいで。恋するって、こんなに辛い終わりしかないのかって思うともうやり切れなくて……何か全てに自信が無くなっちゃってさ」
「だっだめ! そんなことない! 藤宮は見た目もその……良いし、いい奴だし。ユウ君とは駄目になっちゃったかも知れないけど……絶対……他に良い人いるはずだから」
「……ありがとう。嘘でも嬉しい。早瀬はいい奴だな」
藤宮は大きな目をまた少しだけ赤く染めて、私に笑いかける。
「嘘じゃないよ。本当に思ってる。男とか女とか関係なく、私は藤宮はいい奴だと思ってるし、と、友達として好きだし。だから自信なんて無くさないでよ。私に出来ることなら力になるからさ。えーと、そうだな。辛くて1人でいられない時はカラオケだって、ゲーセンだって付き合うし、いい人いないか一緒に探したっていい」
「あはは。ありがとう。俺のことより早瀬は? 」
藤宮はいつも自分の事より人の事を気にかける。でもこれ以上励ましの言葉が見つからなくて、藤宮の質問を素直に答える事にした。
「えっ? わ、私? 」
「恋人は? 」
「いっいないよ! いる訳ない! 分かると思うけど、ほら、私男っぽいし……男の子と2人でなんて出かけた事もないし。そんな勇気も持てないよ」
「じゃあ、俺と練習する? 」
「練習? 何の? 」
「男と2人で出かける練習」
「え……」
「あ、いや、ほら俺ならそんな男、男してないしゲ、ゲイだし。デートの練習的な? それに俺が寂しい時、付き合ってくれるんだろ? だからお互い……win-winみたいな? 」
藤宮は少し自虐的に笑ってみせた。私がそんな辛い恋の終わりを迎えたら、永遠に泣いてくどくどと愚痴ってそうなのに、藤宮はそれを1人で乗り越えて気遣って笑っている。
「あ……いや、ごめん。ちょっと調子に乗った」
「あ……うんん。嬉しい! 私もその……デート? みたいのしてみたかったし」
どんな口実でも嬉しかった。人の恋心というのは、いつまでも消えない。告白した時ほどの寝ても覚めても藤宮を想っている程の熱量はない。だけど、いつだって藤宮の事を見ていた。考えていた。どんな理由だって2人で出かけられる事は嬉しかった。例え恋愛対象じゃなくても。
私は弱った藤宮の好意に甘えることにした。
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