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第23話 直美(10)多恵の不倫の顛末と逢瀬6―恋愛ごっこ
12月は忘年会やらクリスマスで慌ただしく過ぎていった。新年に入ってから実家へ帰るのは正月の帰省客が少なくなった1月15日以降を考えている。
進と日程の調整をしなければならなない。[次回の予定1月14日(金)15日(土)16日(日)]のメールを入れた。すぐに[了解]の返信が入った。二人は同じ目的で定期的に帰省しているので、新幹線やホテルが空いてくる時期を選んでいる。考えることは同じだ。
◆ ◆ ◆
1月14日(金)上野さんと会って食事をしていると、7時過ぎに進からメールが入った。
[1010到着]
席をはずして返信メールを入れた。
[友人と会食中]
上野さんの話を聞いて部屋に戻ってきたら、もう9時を過ぎていた。彼は上野さんと会っていると思っているだろう。聞いた話をすぐにでも聞いてもらいたい。1010室へ電話するが、なかなか電話に出ない。
「ごめん。うたた寝をしていた」
「これからお部屋に行きます」
ドアが開いた。私が機嫌よく入ってきたので、どうしたのかとじっと見ている。彼も話を聞きたいみたいだ。
「会食の相手はご主人に家出された友人か? 破綻した話を聞いてから2か月は経っているから、その後どうなった? 興味があるけど」
「あれからご主人に会って、無断で昔の同級生に会っていたことを謝ったそうよ。それからご主人と結婚する前に両親からその同級生との結婚に反対されたということも隠さずに話したと言っていました。それから私の忠告したとおり、昔も今もその同級生とはそういう関係には一切なかったと言ったそうよ。ただ、会って両親についての愚痴や悩みなどを聞いてもらっていただけだと」
「それでご主人は彼女の言うことを信じたのか?」
「ご主人は黙って聞いていたそうよ」
「半信半疑かな、それなら修復の脈があるかもしれないな」
「それとご主人が家を出たのは彼女の浮気を疑ったことだけではなかったみたい。婿養子として何ごとにつけて彼女の両親の意向を聞くのが嫌になったこともあると、それで長男も大きくなったので、良い機会だと思って家を出たそうよ。それなら彼女の両親も認めるだろうと」
「それなら彼女に対して未練が幾分残っていると思うけどな」
「彼女はこんなことになったのは、あのとき親の反対で言い成りになって結婚をあきらめたことが原因だと、そしてそれを忘れることができなかった自分が悪かったと、それでご主人に自分の分を記入した離婚届を渡したそうよ」
「ご主人が書いた離婚届はどうなった?」
「それは破り捨てたと言ったそうよ。私は離婚したくないからと」
「ということは、今度はご主人に離婚の判断をゆだねたということか?」
「それにご主人に始めからもう一度お付き合いを始められないかと頼んだとか?」
「どういう意味かな?」
「一からやり直したいということ、それで駄目なら諦めるという意味ね。あなたと一から付き合ってみたい、それが二人の間にはなかったからだとか言って」
「それでご主人は受け入れたのか?」
「その時は、いいとも、だめだとも言われなかったけど、明確に否定されなかったから、やってみようと思ったそうよ」
「どういうこと?」
「まあ、いわゆる押しかけ女房ね。週末に彼のアパートに出かけて掃除・洗濯・料理を始めた。始めは無視されたみたいだけど、それでもめげずにそれを繰り返していたら、それが功を奏したみたい。先週、急な雨に降られたら、泊まっていったらと言われたそうです」
「それで修復が完了した?」
「ご主人には彼女に未練があったみたいね」
「それに彼女の誠意が通じたんだね。信頼しないと信頼してもらえない。愛さないと愛してもらえない。そのとおりだね」
「それから彼女は実家を出る決心をしたそうよ。姓もご主人の姓に変えるそうです」
「すごい決心をしたね」
「ご長男が実家を継ぐことでご両親も承知したとか。万事、うまく納まったみたい。私のアドバイスを感謝されたわ。今回の相談は自分でもすごく勉強になった。男は初めてにこだわるのが分かったし、私だったらこんなにうまくできるかなって思って」
「君ならできるさ。まあその前に絶対に露見しないようにしないといけないけど」
「ええ、それから彼女が言っていたわ。『恋愛ごっこ』を仕掛けたと」
「どういうこと、二人は見合い結婚で恋愛期間がなかったから『恋愛ごっこ』をしかけたのか? どこかであったような話だな。ご主人にはそれがないけど、彼女には恋愛経験があったのだから簡単だったな、彼女のペースに引き込めた。なかなかやるね」
「もう彼を離したくないから、今でもそれにはこだわっていると言っていた」
「そういえば、僕たちにもそれはなかったな。だから今の関係があるともいえるけど。彼らのことは僕たち二人にも共通していることだ。この前は『初体験ごっこ』だったけど、すごく感激した。どう? 今日はその『恋愛ごっこ』をしてみない?」
「うふふ、おもしろそうね。ところでどうするの?」
「Hを始めたばかりの恋人同士に戻って新しい体位とか愛し方にチャレンジしてみるのはどう?」
「確かに長年連れ添ったカップルは愛し合うパターンがほぼ決まっていて、マンネリになっているかもしれません」
「それに新しいことをすると、どうしたの、どこで覚えたの、どこで仕入れたのと、気にされる。風俗とか浮気して覚えてきたのではと疑われかねない。だから気が引けて新しいことになかなかチャレンジができない」
「ありかも。私だって、どうしたのって聞くかもしれない」
「それにあなたって本当はこんなことをしたかったのだとか、こんな趣味があったんだ、今まで分からなかったとか、言われると恥ずかしい」
「確かにそれもありね。こんなことをしてほしいと、唐突にいうと、どうしたのと聞かれかねない。それにそんなにHが好きだったんだと思われるのも恥ずかしい」
「長く連れ添っているとかえってお互いに気を使って両すくみになっているのかもしれないね。それで新しいことにチャレンジできなくなって、ますますマンネリに落ちってしまうのかも」
「浮気や不倫ってそういうところから芽生えるのかもしれないわ。非日常の新しいことを求めて」
「僕たちはまだHを始めてから短いから恥ずかしがらないで何でも挑戦できる」
「それにお互いにもう遠慮は無用なほどには知り合っているからね。ちょぅどよいかも」
「それで、二人で四十八手の体位をすべて試してみて、どれがよいのか実際に調査研究するのはどうかな?」
「さすが理系だけのことはあるわ、考えることがシステマティックね。じゃあ、すぐに始めましょう」
◆ ◆ ◆
進はスマホで検索して適当なサイト『四十八手完全ガイド』を見つけた。分かりやすいイラストが描かれている。
二人でひとつひとつ試していく。まず、立ち鼎(たちかなえ)、マニュアルを見て形を整えて動いてみて快感を確かめる。二人ともこれが初めての体位であったので挑戦してみたが刺激的ではある一方不安定でバランスをとるのが難しいし疲れる。二人の評価は中くらいだった。
ひとつ確認してから、また次を試す。ただ、一つ試すのに5分以上はかかった。簡単なものからアクロバティックなものまであって、半分の24を試すのに2時間以上かかった。二人とも半分試したところで疲れてしまった。こんなに体力が必要とは思わなかった。
「もうだめだ。身体が持たない」
「腰がだるい」
「今日は半分までにして、残りは明日の晩にしよう」
「その方がよさそう。私たちはもうそんなに若くないことがよく分かりました。お休みなさい」
この共同研究はとっても楽しかった。でも、私は眠くて、眠くて、すぐに眠ったみたい。その後の記憶がない。
◆ ◆ ◆
次の晩は私の部屋で残り二十四手を試してみた。新しい発見があった。二人ともいままで試みたことがなくて、特に気にいったのが「松葉崩し」と「敷き小股」だった。
「松葉崩し」は彼とっては刺激的で私を自由にしている感じがして好きだと言っていた。私も深く結ばれているという感じがして好きだ。
また、「敷き小股」はうつ伏せに寝ているので、すごく楽な体位でしかも無理やりされて征服されているような感じがして興奮した。
二人は2日間かけてようやく四十八手を踏破した。お互い気にいった体位が見つけられて共同研究したかいがあった。でも二人とも疲労困憊した。ただ、二人で力を合わせてそれらを踏破したという充実感だけは残った。でももう一度すべてを試そうとは思わない。
分かったことは、立つか、座るか、上向きか、うつ伏せか、横からか、後ろからか、そのバリエーションだ。システマティックに研究すると見えてきた。昔も今も人類のすることは変らないし変えようがないと思う。
二人とも朝までしっかり熟睡できた。運動不足だったので身体中に筋肉痛が残りそうだが、楽しい思い出になった。
勉にはうまくねだってしてもらおう。それが帰ってからの楽しみだ。進は彼女にどういうふうに言って試してみるのだろう。それもが気にかかる。
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