第24話 直美(11)逢瀬7―別れの予感とレイプごっこ

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第24話 直美(11)逢瀬7―別れの予感とレイプごっこ

2月の始めに3月の帰省の予定日を進と調整した。春分の日の祝日を含めて3月19日(土)20日(日)21日(月)とした。すぐにホテルの予約を入れた。 ところが2月3日(木)朝になって、ご近所の方から母が倒れて救急車で入院したと連絡が入った。すぐに特急に乗って、病院に駆け付けたが、死に目には会えなかった。あっけない母の死だった。 進には[急用が入ったので3月の予定をキャンセルします]とメールを入れた。すぐに[了解]の返信が入っていた。 それからはあっという間だった。通夜と葬儀、役所への手続きなどをしなければならなかった。今日3月19日(土)に四十九日の法要を行い、納骨を終えた。夫の勉と昨日からホテルに泊まっている。 二人は駅前のビルで夕食を終えてホテルへ戻って来た。キーを受け取ってエレベーターに乗ろうと歩いていくと、その前を男性が入っていった。すぐにその後に駆け込んだ。夫が慌ててついてきた。 Open ボタンを押して扉を開けておいてくれた人を見て、一瞬驚いた。ここへきていることは分かっていたつもりだったが忘れていた。進だった。 そのあとから夫も乗り込んできた。夫は「すみません」と彼に声をかけた。彼は頭を下げてそれに応えた。 「何階ですか?」 「12階をお願いします」 「疲れたね。ゆっくりしよう」 「はい、疲れましたね」 彼には私の夫だと分かったと思う。彼は11階でエレベーターを降りていった。 声をかけられなくてよかった。でも彼は声をかけてこないと思った。しばらく前にここで会っていた時も彼とエレベーターで一緒になったことがあった。ほかに同乗者がいなかったが、二人は言葉を交わさなかった。 エレベーターには防犯カメラがついている。これを警備会社が常時監視している。同乗者がいなくてもいつも見られているのに変わりはない。抱き合ったりすればすぐに目につく。 進はエレベーターに乗っているとき、エレベーターのミラーに映った主人の顔を見ていた。その時、夫はエレベーターの中でずっと私のことを見ていた。私が夫を見る目もいつもとは違っていると思ったのではないだろうか? 翌朝、地下の食堂でもエレベーターでもフロントでも彼を見かけなかった。結局3月20日(日)にチェックアウトするまで彼を全く見かけなかった。 ◆ ◆ ◆  4月下旬の昼休みに進にメールを入れた。[前回は申し訳ありません。次回は5月13日(金)14日(土)15日(日)]。しばらくして[了解]の返信メールが入った。 ◆ ◆ ◆ 昨年は同窓会の前日に会った。あれからもう1年が経っていた。進とはもう6回くらいは逢瀬を重ねていた。 5月13日(金)の午後7時過ぎにチェックインして部屋にいるとメールが入った。 [1222到着] すぐに部屋に電話を入れた。彼は電話にも注意して出ている。私がしゃべるまで何も言わない。 「私です。これから行きます」 ドアをノックするとすぐにドアが開いて中に入れてくれた。そして私を抱き締めてくれた。1月に会って以来の4か月ぶりの逢瀬だった。いつもより長く抱き合っていた気がする。 「部屋はとなりの1223号室です」 「どうりで早いと思った」 「3月はご免なさい。急にキャンセルして。母が亡くなったので」 「そうだったのか、今までになかったことだったからどうしたのかと心配していた」 「2月3日の朝、ご近所の方から母が倒れて、救急車で入院したと連絡が入りました。すぐに特急に乗り込んで、病院に駆け付けましたが、死に目には会えませんでした」 「ええっ、それは大変だったね」 「父が亡くなった時も大変でしたが、あの時は母が気丈に取り仕切っていました。今回は長女の私が中心になって仕切らならなければならなかったので疲れました。あのエレベーターで会った3月19日に納骨をしました。今は両親の遺品や家具家財の整理をしています。ようやく落ち着いてきたところです」 「何も知らなかった。申し訳ない」 「あなたには何も知らせない方がよいと思って」 「あの人がご主人? 見合い結婚をした?」 「そうです。あなたが予定を変えずに帰省しているかもしれないとは思っていましたが、まさかエレベーターで出くわすとは思いませんでした。正直、驚きました」 「声をかけなくて良かった」 「あの瞬間、あなたは声をかけないだろうとは思っていました」 「僕の目からはとても良い人と見えたけどそうだろう」 「そうですね。気になりますか?」 「気にならないと言ったら嘘になる」 「主人のことをもう少しお話しておきます。あのお見合いの相手が今の主人です。お見合い相手は高校の2年先輩であることは事前に知っていました。お見合いして初めて分かったことですが、彼は私が入学したときに一目ぼれした3年生だったんです。その当時、遠くから見て憧れていた名前も知らない素敵なかっこいい先輩でした。当然彼も私の顔も名前も知りませんでした」 「道理でどこかで会ったことがあると思ったわけだ。高校の先輩だったのか。僕もどこかできっと会っていたんだな」 「彼は関西の製薬会社に就職していて、親から見合い結婚を勧められて、後輩の私とお見合いをしたんです」 「それで彼が君を気に入ったのか?」 「ええ、憧れていた先輩に気に入られてとても嬉しくなって、ひょっとして運命のひとかもしれないなんて思って、いつのまにか婚約して結婚していました」 「そうだったのか」 「主人は見たとおり、かっこよくて、それで自信家なんです。だから自信をもって私に接してきました。私が断るわけがないという風に。でも悔しいけどそのとおりになりました。そつがなくて優しくて私には過ぎた人かもしれません」 「僕は負けるべくして負けたと言うわけか?」 「いいえ、あなたにはあなたの良さがありました。人への優しさ、自分への謙虚さ、そして、気配り。今でもそれは変っていません。だからあの時も迷いました。でも彼は私と結婚したいと言ってくれました。その違いかもしれません」 「そのとおりだ。僕にはその前へ進む勇気というか気持ちがなかった。その違いだね。今は少し違っているけど」 「そう、主人には恥ずかしくてしてほしいと言えないことをしてくれる」 「じゃあ、今夜は『レイプごっこ』をしてみないか?」 「『レイプごっこ』? おもしろそう。してみたい」 ◆ ◆ ◆ 「レイプごっこ」をしてみて分かった。必死で抵抗したけどとても体力が必要だった。実際にすると間違いなく犯罪行為だと思う。 彼も疲れたと見えて、ここまでと終えたところでは、いつもにもまして疲れた顔をしていた。今はぐっすり気持ちよさそうに寝息を立てて眠っている。 まず、始めに二人でルールを決めた。お互いに服を着た状態ではじめること、彼が襲い掛かって私が抵抗すること、殴ったり、蹴ったり、爪を立てたり、嚙みついたりしないこと、服や下着を破いたり、ボタンが取れたりしないように注意すること、大きな声や物音を立てないこと、そして身動きができないように押さえつけて思いを遂げるまで止めないこと、時間は無制限1本勝負。 二人が部屋に入ったところから始めた。まず、彼が私の後ろから抱きつく。私は「いや」といって部屋の中へ逃げる。彼が後を追いかけまわす。後ろから捕まえて抱きついて、ベッドに引き倒す。上着を脱がせにかかる。腕を前にして抵抗するが、脱がされてしまう。次にスカートに手をかけて後ろからファスナーを下げて脱がされた。 「やめて」とか「いや」とか「だめ」と小声でいうのでますます彼は興奮するみたい。ブラウスのボタンを丁寧に外していく。その間も腕はバタバタ動かすし、足も曲げて抵抗を続けている。腹ばい寝かせされてその上にまたがってパンストを破らないように脱がす。ようやく下着だけにされた。 脚をしっかり閉じて、身体を丸めて、必死で抵抗すると、何もできなくて手をこまねいていた。 そのうち部屋に備えつけの寝具の紐をとって私を後ろ手に縛った。腕の抵抗がなくなるだけでずいぶん楽になったみたい。足を絡めて、ようやく身体の下に私を組み敷くことができた。 「勝負ありだね」そういったが、私は身体の力を抜かなかった。まだ身体をひねって抵抗を続けた。それでなおさら彼も興奮して力が入る。 後ろ手に縛られた私は抵抗も空しく彼の思いのままになった。腹ばいに寝かせたり、立たせたり、跪かせたり、あらゆる体位で私を弄んだ。 そして何度も上り詰めて朦朧とする私の口の中で果てた。私はそれを飲み込んで受け止めた。「ごめんね」というので無言で頷いた。私は疲れ果てて深い眠りに落ちていった。 「レイプごっこ」をしたいといったのは、きっと進の心の中に夫への嫉妬があったのだと思う。夫と偶然会ったことと私から結婚までのいきさつを聞かされたことで、私を奪われたという何か鬱積した思いが現れたに違いない。終わった後、なぜか得も言われぬ嬉しそうな顔をしていた。 ◆ ◆ ◆ 翌日はとなりの私の部屋で愛し合った。私は昨日と同じようにしてほしいと頼んだので、もう一度「レイプごっこ」を再現してくれた。昨日に懲りたみたいで、今度要領よく、すぐに私の両手を後ろ手に縛って抵抗ができないようにした。それでゆとりをもって長い時間をかけて思う存分に気が遠くなるほど弄んだ。 大きな声を出しそうになったので、猿轡をされた。それがかえって刺激になって、何度も何度も昇り詰めた。また、もう1本のひもを股間にとおされてそれを引き絞られた。すごい刺激で思わず「ぎゃー」といって気を失った。そしてそのまま深い眠りに落ちていった。 ◆ ◆ ◆ 目が覚めた。まだ、11時だった。話を聞いてもらいたくて彼を揺り起こした。 「目が覚めて考えごとをしていたら目が冴えてしまってお話がしたくなった」 「なに? 考えごとって」 「レイプごっこで縛られて動けなくされて可愛がってもらったら、今までにないようなすごい快感があったの。どうしてかと考えていたら、女性には好きな人に無理やり奪われたいという自然な欲求があるとどこかに書いてあったことを思い出して。本当は好きな人に優しくしてもらいたいのにどうしてだろうと思って」 「僕が想像するに女性は逞しい強い男性の子供を産みたいという本能的な欲求があるからじゃないかな。男性なら誰でも女性を無理やりにという本能的な欲求があるのと同じじゃないか。 ただ、理性が抑えているけど」 「あのとき私は抵抗するのに夢中だったけど、すごく濡れているのに気がついて驚いたの」 「そんな時は本能的に強いオスを受け入れる準備をしているのかもしれないね」 「確かにいうとおりかもしれない。そのあとの快感がすごかったのを思うときっとそうなのね。理系は理論的に考えるのね。聞いてもらってよかった」 「理系といっても生物科学系だから。それで納得して寝られそう?」 「いえ、ますます目が冴えて眠れなくなりました。それでもう一度お願いします」 私が感じすぎて早めに快感で気を失って寝落ちしたので、彼にはまだ十分に余力が残っていたみたい。今度は優しく可愛がってくれた。 ◆ ◆ ◆ 朝、彼が目を覚まして自分の部屋に戻ろうとするので抱きついた。 「母が亡くなって、もう、こうしてここへ来られる口実がなくなりそうです。だからこの次が最後になるかもしれません」 「お母さんが亡くなったと聞いたときにそう思った。今度会えたらそれが本当に最後になるかもしれないね。その時を大切にしたい。もう後悔しないように、思いを残さないようにしたい」 「私もそう思っています」 私を力一杯抱きしめて、それから長いキスをして部屋を出ていった。
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