第26話 廸(4)分からないことと進への思い

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第26話 廸(4)分からないことと進への思い

7月10日(日)夫はいつものように実家から帰る日には駅に着いたら新幹線に乗る前に私に電話を入れてくれる。 「これから帰るけど、買ってきてほしいものはある?」 「いつものように夕食にお弁当を3つ買ってきてください。ほかにお菓子の詰め合わせ、この前とは違った店のものにしてくれる?」 「了解。いつもと同じ3時前には家に着けると思う」 「気を付けて帰って来て」 ◆ ◆ ◆ 3時過ぎになって帰ってきた。今日はいつもより時間がかかった気がした。それにいつもと違って少し元気がないようにみえた 「身体の具合でも悪いの? それとも何か気になることでもあるの? お母様は変りなかったの?」 「いつもと同じだけど、暑い中を歩いてきたせいだろう。東京の気温は高すぎる。恵理は勉強しているのか?」 「今日は2時から水泳教室へいっています。4時になったら迎えにいきます」 「僕が行こうか?」 「いいえ、あなたは家で休んでいてください。夕食はお弁当がありますから準備がいらないので大丈夫です」 彼が家に帰ってくるとほっとする。 ◆ ◆ ◆ 進が手を握ってきたので目が覚めた。部屋の時計は12時を指していた。私は後ろから抱かれて寝ている。腰に回していた私の手を彼が無意識で握ったみたいだった。彼は寝息を立てて眠っている。 帰省の後の夜は必ず愛し合っている。ここ1年くらいはそうだった。私もそれを楽しみにするようになっている。今日も私に新しいことをしてくれた。 今日はいつもと様子が違っていた。無意識かもしれないが、何か鬱積でも晴らすように、私にそれをぶつけていたみたいだった。 私はすごく感じてしまって、いつも以上に何度も上り詰めた。腕をつかんだり、手を握ったりして、それを彼に伝えた。私はめったに快感の声を出さない。恵理を意識しているからだけど、今日は声が漏れてしまったので、慌てて押し殺した。 私はひょっとすると帰省したときに誰かと秘密に会っているのではないかと思っている。それも私に分からないように。でも彼にそんな器用なことができるはずがないとも思っている。そんなことは絶対にないとも信じたい。 でも、いつか帰ってきたときに服の匂いをかいでみたことがあった。かすかながら私のものとは違った淡い残り香があった。でも彼には何も言わなかった。どうせ言い繕うにきまっているし、万が一女性と会っていたことを認められてもこちらが困る。 それからは彼が帰省から帰るたびに服の匂いをかいでみたが、残り香があったときとなかったときがあった。その様子を彼に見られたこともあった。私は思い過ごしであると思っている。 万が一、そういうことがあっても私に絶対に分からないようにしてほしい。でないと私もどうしてよいか分からない。彼とは絶対に別れたくない。だから、駄目を詰めて彼を困らせるようなことはしたくない。 それなら、その罪滅ぼしに私をもっとかわいがって感じさせてほしい。その方が私にはよっぽど良い。
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