第一章 退治屋・真白の日常

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放課後は真白にとって仕事の時間だ。毎日ではなくとも定期的に校内や地域の見回りをしなくてはいけない。 特に真白達退治屋が住むこの地域では妖が出やすいらしい。磁場の関係がどうとかいう話をはるか昔に聞いた覚えがある。 明日は強い妖が現れると予知された日だ。他の所にも影響はないか、しっかり見回りしよう。 真白は人がほとんどいなくなった校内を一部屋一部屋見て回る。 今日も学校は異常なしかな。 特に何も異常はなく今日はもう帰ろうか、と職員室の前に差し掛かったときだった。 職員室から誰かが出てくる。先生かと思ったが違ったようだ。 ん? あれは黒崎理人! 会いたくないと思っているとき程会ってしまうものでタイミングとは本当に恐ろしいものだ。 黒崎理人はどうやら先生の手伝いをしていたらしい。ここからは陰になっていて見えないがお礼を述べる先生の声が聞こえる。 「ありがとうな、黒崎」 「いえいえ、先生が大変そうだったのでついお声を。作業のお邪魔をしてしまっていたらすみません」 「いやいや、本当に助かったよ。家の方も忙しいのに手伝わせてすまんな」 「大丈夫ですよ。ほとんど準備は終わってしまっていますから」 にこやかに話す黒崎理人は好青年そのもの。絵に描いたようないい人。 まぁオレには関係ない。 気にせず帰ろうとした瞬間、あることに気づく。黒崎理人の右手が黒いもやのようなものに覆われていたのだ。それもよく目を凝らさないと分からないくらい微かなもの。 ここで見て見ぬふり出来たらどんなにいいことだろう。けれど明日への懸念材料は排除しておくべきだ。 それにこれを見て見ぬふりしてじいちゃんにバレた場合、確実に説教だ。 はぁ仕方がない……! 真白は黒崎理人が帰ろうとするのを見計らって素早く歩き出した。 「それじゃあ先生、さようなら」 「おう、気をつけて帰れよ」 真白は二人の横を通り過ぎる。黒崎理人が私の背中を見たであろうタイミングで真白はハンカチを不自然に見えないように落とした。 そしてそのまま真白は歩き続ける。後は拾ってくれるのを待つだけだ。 彼は気付くだろうか。 「君、ハンカチ落としたよ?」 よっしゃぁぁ! 作戦通り! 内心ガッツポーズをしながら振り返る。と……。 ち、近っ!? 思っていた以上に近くに黒崎理人の顔があって驚く。が、驚いてる場合ではない。 彼の差し出すハンカチと彼の右手に触れて、受け取るように見せかけて強く念じる。 『浄化せよ』 すると黒崎理人の手を覆っていた黒いもやがすっと消える。 おし、これで任務完了と。 簡易的な呪文ではあるけど上手くいってよかった。 「ありがとうございます」 うつむき加減にボソボソとした声で真白はお礼を述べた。 「いえいえ、どういたしまして」 明るくにこやかな声が帰ってくる。真白は一礼をしてさっさと歩き出した。 あぁ、関わりたくなかった人に自らきっかけを作ってしまうとは……。 学校の爽やか王子様、どうかこんな地味なガリ勉のことはさっさとお忘れ下さい。
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