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宇川が足を止めたのは繁華街から一駅分ほど歩いたところにあるマンションだった。造りからして新しいマンションに見えた。エントランスは広く、中には共用の休憩室のような場所もある。これだけ立派な造りのマンションなら部屋も広そうだ。
宇川は鞄から鍵を取り出すとオートロックを解除した。何の躊躇いもなく入っていく背中を追いかけながら、旬は宇川に尋ねた。
「ここが博志の家?」
家でデートをする時は必ず旬の家だった。家でのデートをするなら、ラムとも楽しみたいという宇川の希望だった。旬も同じように思っていたので自分から宇川の家に行きたいとは言わなかった。なので旬は宇川の家に今の今まで足を運んだことがない。
「いや、違う。俺の家は職場からすぐのアパートだよ」
「え、じゃあここは?」
「見れば分かるさ」
一階の一室の前で足を止める。そこは一番角にある部屋だった。宇川が鍵を開けてドアノブに手をかける。
「お邪魔します……」
恐る恐る足を踏み入れた。宇川は靴を脱ぐとそのままズカズカと足を踏み入れ廊下を歩いていく。旬は黙ってその後ろをぴったりとくっついていった。突き当たりにあった扉のドアノブに手をかける。
「……広いな」
扉の先には何畳あるか分からない広々としたリビングがあり、そこに部屋が三つ見えた。おそらくファミリータイプであろう間取りに旬はただ周りをキョロキョロと眺めるしか出来なかった。
「……誰の家?」
「俺と旬の家」
「はぁ⁉︎」
いきなり自分の名前を出されて目を見開く。博志はともかく、どうして自分もこの家の住人になるのか全くもって理解が追いつかなかった。
「この部屋を借りたんだ。この先、旬が不在の間もラムちゃんの面倒も見なければならないだろ? そんな時は俺が適任だと思うんだ」
「まぁ、そりゃあそうだけどよ。でも、その度に博志に任せるわけには……」
「それに一階なら機材を運び込む時も楽だろう? この部屋は防音も効いてるし、もちろんペット可の物件だ」
「お、おう」
当たり前のように言われていよいよ混乱してきた。今現在、宇川は住んでいないがそのうち二人の家になる。鍵を持っているからもう契約は済ませているのだろう。しかし旬は一切の事情を知らされていなかった。……ますます混乱してきた。
「ごめん、少し遠回し過ぎたね」
困惑の顔を浮かべる旬に気付いたのか、宇川は旬の手をとって何かを握らせた。手を開くと真新しい鍵がキラリと光っていた。
「鍵?」
「旬の分だよ」
「へ?」
「俺と一緒にこの部屋に住んでくれないか?」
宇川が真剣な眼差しで旬を見つめる。どれほど本気なのかが瞳から伝わってきた。
「……俺に相談もせずに決めるとか、気が早過ぎだろ」
「一度こうしたいと決めたら、動かないと気が済まなくてね」
「でもまぁ、いい部屋じゃね? ラムも気にいると思うし」
自身のキーケースに宇川からもらった鍵をつける。一際眩しく輝く鍵を眺めながら引越しの日取りをいつにしようかと、ぼんやり考えていた。
部屋は既にいくつか家具が運び込まれていた状態だった。おそらく宇川の私物であろう。気が早いようで大きなキャットタワーも置いてあった。ラムが見たら大喜びしそうだ。
「随分とデカいベットだな」
寝室にはキングサイズのベッドが置かれていた。横にはサイドチェストと間接照明が設置されている。
「いい雰囲気だろ? 睡眠には気を遣いたいから勝手に選んでしまったけれど……それなりにいいものを揃えたつもりだよ」
「俺は寝れりゃあなんでもいいけど、これならしっかり寝れそうだな」
「気に入ってもらえたみたいでよかった」
旬は広いベットに思い切りダイブした。ほどよい反発が心地がいい。大の字になって天井を見上げていると、これからここで宇川と生活を共にする実感が湧いてきた。隣に宇川が腰掛けてきて、そっと旬の髪を撫でた。
「寝心地抜群だろう? いいマットレスを使ったんだ。プロのアスリートも使っているメーカーなんだ」
宇川が撫でてくれるのが嬉しくて目を細めていると、宇川が隣に寝そべってきて旬をギュッと抱きしめてきた。久しぶりに直近で感じる宇川の香りに旬の身体の奥の方が昂った。
「……なぁ、博志」
「ん?」
「キス、したい」
旬のぶっきらぼうなおねだりに宇川がそっと顔を近づけてくる。触れ合った唇の心地よさに何度も吸い付くように唇を押しつけていると、宇川の舌が割り入ってきて、旬を味わうように口内を動き回る。呼吸を奪われてしまいそうなくらいの激しいキスに、旬の頭の中は溶けてしまいそうだった。二人の唾液が混じり合う音が響く。舌と舌が番うように絡み合った。宇川の唾液すら逃したくないと旬は必死に舌を動かした。
「んっ……ふぅ、うっ」
宇川の顔が離れた。唾液に濡れた旬の唇を舌で丁寧に拭う。それだけでも宇川の舌のざらつきを感じて、旬はゾクリと身を震わせた。
「ダメだな。我慢しなきゃ……今日は部屋を見せるだけのつもりだったんだ。ラムちゃんも待ってるし」
宇川の気遣いが嬉しい。でも一度点いてしまった欲望の火は瞬く間に燃え広がり、旬の自制心を焦がしていく。
「今日はちゃんと帰るから……だから、シてぇ」
宇川は少し考えた後に眼鏡を外した。
「そんな風に言われたら、シないなんて選択肢はなくなってしまうな」
もう一度、旬の唇にキスをする。旬の方から舌を差し出す。するとそれを吸うようにして宇川は舌を絡ませた。吸い上げて、甘噛みし、今度は旬の歯の一本一本まで丁寧に舐め取っていく。チャームポイントでもある八重歯の辺りを宇川は念入りに舐め、満足した後は舌を吸ってから唇を離した。
「もう顔がとろけてきてる」
優しくも激しいキスを受けて旬はもう宇川のこと以外考えられなくなっていた。もっと宇川が欲しい。誘うように見上げると宇川はゴクリと喉を鳴らした。
「もう、博志のやばいじゃん」
宇川の欲の兆しに気付き、旬は足でちょっかいをかけるようにソコを刺激した。硬さを見せたそこは旬の足での刺激でみるみると大きくなっていく。
「はしたない足だな」
「嫌い?」
「……嫌いじゃないよ」
普段であればこのまま主導権を握られてしまうのだが、今日は旬から誘ったのだからリードしたい。身を起こすと宇川を押し倒す。ベットが大きく軋んだ。
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