異物

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異物

 両親が離婚を決めたのは、私が小学校六年生の時だった。 「里帆はお母さんと一緒に出て行くのよ」  私が知らされた時には全てが決した後で、私は両親の出した結論に黙って従う事しかできなかった。  唯一私の心に寄り添ってくれたのは、一緒に住んでいた父方の祖母だけで……おばあちゃん子だった私は、自分が抱えた不安や心配や怒りや不平不満といったありとあらゆる感情を、祖母にだけ吐露した。  何よりも家を出て、おばあちゃんともう会えなくなるのは耐え難かった。 「大丈夫だよ」  おばあちゃんは泣きじゃくる私の背中を撫でながら、そう耳元で囁いた。 「何がどうなったとしても、おばあちゃんは里帆のおばあちゃんだよ」 「本当に?」 「あぁもちろんさ。約束する。なんてったって、里帆はおばあちゃんのたった一人の孫なんだからね。おばあちゃんはお父さんでもお母さんでもなく、里帆の味方だよ。いつだって会いに来てくれていいんだからね」  その言葉が、不安定に揺れる私の心を支えてくれた。  例え両親が離婚したとしても、私は二人の子どもであり、おばあちゃんの孫であり続けるんだから。  苗字が変わって、離れて暮らすようになるだけで、血の繋がりまでもが失われてしまうわけじゃないんだと冷静に受け止める事ができるようになった。 「また遊びに来るね」 「あぁ、いつでもおいで」  旅立ちの日にも、おばあちゃんは笑顔で見送ってくれた。  私が〈世界で一番大好き!〉と描いた似顔絵を手に、私が見えなくなるまで、いつまでもいつまでも手を振り続けてくれた。
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