落ちるのは穴か沼か

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身近な人間が同じような立場に居ると参考になる。心強いとでも言うべきか。 『ちょっとぉぉぉぉ!!!やだ、今日の配信見れなかったわぁぁぁぁ!!!ちょ、ツイ、ツ○ッター!!!』 他人からあんな風に見られるのは心底遠慮したいので決して取り乱さぬようにしたいと言う人のふり見て何たらの教訓も痛い程刻まれるが。 『人様のツイ○ターを見て供給のお裾分けを…!!命の蝋燭を分けて貰わなきゃ…!!』 『えええええええええ!!!!好きな食べ物が栗の渋皮煮とか言ってたのっ!!何!!可愛い…!!』 『趣味が栽培してるアロエに話し掛けるとか…!!可愛いっ!!』 限界オタクの末路を見た気がするが、矢張りと言うか、 (推しの事は知りたくなるよなぁ、うん) 新メニューと入口の看板にでかでかと書いてあった白玉マンゴーパフェ。 何か気になる。 メロンソーダを注文した大海の隣で、結局それを注文した帆高の前には鮮やかなオレンジ色のソースがたっぷりと掛けられたパフェが置かれる。 白玉もたっぷり、艶々と。 見た目のトロピカルさに夏が近づいているのを視覚だけでなく、味でも味わえるようだ。 「白玉とマンゴーって合うんだ…」 食べて初めての気付き。 もっちりとした淡泊な味わいの白玉に濃厚なマンゴーソースがやたらと合う。 おぉっと眼を輝かせる中、隣でそわそわと此方を見遣る大海にもスプーンでお裾分けしてやれば、嬉しそうに『あーん』と口を開けた。 「うまいだろ」 「めっちゃ、うまぁ…!」 そんな二人を見て、あははと笑う大貫の声は今日もデカい。 「お前らって仲良いよなぁ」 「お、幼馴染なんでっ!!」 誤解されたくないと思ったのか、口元にクリームをつけた侭慌てて首を振る大海だが、大貫の眼はどこまでも優しい。 そんな二人をパフェを食べながら見遣る中、帆高はタイミングを見計らう。 「あの、大貫さん」 「ん?」 珍しく帆高の方から声を掛けられたのが珍しいのか、一瞬くるりと眼を動かすも、すぐに笑顔で対応してくれる大貫に、若干の罪悪感を感じつつも言葉を続ける。 「俺等大学入ったばっかりで…そのサークルとか誘われてるんですけど、大貫さんは何か入ってます?」 「あー、サークルかぁ…俺は入ってねぇなぁ。面倒でさ」 そう頭を掻きながら眉間に皺を寄せる姿に大海の方が首を傾げた。 「何か、あったんすか?」 「いや、別に何も無いけど、サークルとかで人に合わせるよりも一人で活動した方が楽だなって。こうやってバイトもしなきゃだったしさ」 「………へ、え」 意外も意外過ぎる。 大貫くらいに人から好かれるオーラがあると言うか、纏っていると言うか、もうスタンドとして背後に常にあると言うか。 そんな男故、団体行動なんて当たり前に出来るもんだと、むしろ得意分野、大人数でわいわいと賑やかなモノが好きだと思っていた。 大海もそう思っていたのだろう、好きな人間の知らなかった部分を今初めて知ったとメモが出来ない代わりに脳に記憶させるべく、瞬きひとつせずに頷いている。 「お前らはサークル入ろうと思ってんの?色々あるだろうし、自分に合うのがあるといいな」 「い、いや、そうなんですけど、そのー…お、俺が人見知りって言うか、あんま他人と馴染めないって言うか、」 「は?そうなのか」 いえ、嘘ですけども。 だが話を膨らませる為だ。 こんな可愛らしい嘘も許してもらえるだろう。 「だから大貫さん普段何してんのかなーって話をしてて、良かったら一緒に出来る何かがあったらいいな、って」 我ながら天才だ、とまで自画自賛する訳ではないが、不自然さの無い話の切り出しではないだろうか。 白玉のもっちり感を口内で楽しみつつ、遠慮がちにお伺いを立てる帆高に大貫は、予想していなかった笑顔を見せた。 「おぉ、じゃあさ、今度出掛けね?」 「え、」 まさかのお出掛けのお誘い。 あわよくばと思っていたが、こんなに簡単に事が進むとは。 「最近ちょっとキャンプやってみたいなぁって思ってて。ひとりキャンプもいいかなって思ってたけど、お前らもどうだ?」 「キャンプ…、い、行きたいですっ!!」 「そっかっ!まずは日帰りで行って、今度は一泊とかさっ」 「い、いいですねっ!!」 勢い付いた大海の眼がキラキラでは無く、ギラギラとして見えるのは何故だろう。 明らかに一泊と言うお泊まりコースに反応しているのだろうが、あまりに露骨過ぎるその態度。 渋い顔を晒してしまいそうになる帆高だが、まだだ。 まだ最終目的にまでは達していない。 「お前も来るだろ、公文」 「あ、はい、えっと…」 けれど、『律さんは?』とは流石に問う図々しさを持ち合わせていない。ここからどうその話に持っていこうかと視線を彷徨わせるも、 「じゃ、色々と買い揃えたい物もあるしな。次の休みにでも一緒に買い物行くか?」 「行きますっ!!お、俺全然キャンプの事知らないんで色々と教えて下さいっ!」 進んで行く二人の会話。 (やば…) きゃっきゃっと楽しそうな二人の間に口を挟める事もなく、小さく肩を落とした帆高は残ったパフェをスプーンで掬う。 少し溶けてしまったそれの甘味が苦く感じてしまいそうだ。 が、 「キャンプ、行くんだって?」 「へ?」 部屋のゴミを掃除して欲しいと言う本日の依頼を遂行している途中、不意にそう問われた帆高はゴミを持つ手を止めた。
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