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それはそれ、これはこれ
大貫と大海、そして律と帆高。
待ち合わせにやってきた大貫がニコッと笑いながら手を振って走ってきたが、その笑顔のまま律に挨拶しつつ、帆高を見遣った瞬間、驚いたように目を見開いた。
ーーーように、見えたのだがすぐに帆高にも白い歯を見せつけ挨拶をすると一番最後に慌ててやって来た大海と合流。
そこからキャンプ初心者用に靴や服、バックパックから揃え、食事用の用具を割り勘で購入し、テントもひとつ購入した。
「俺が一つあるから、当日は二つでいいよな」
「わ、ありがとうございますっ」
ニコニコと嬉しそうに礼を言う大海の眼がキラリと光るのを帆高は見逃さない。
人間四人に対し、テントは二つ。
きっと幼馴染の脳内では如何にして大貫と同じテントになるかを考えているのだろう。折角一泊するのだ。もっと大貫の事を知り、お近づきになろうと画策しているのが容易に見てとれる。
(そりゃ好きな人ならそうなるか)
気持ちは分からんでもないと肩を竦め、両手に下げた荷物を抱えなす。
食材は当日購入しようと言う話になったが、車まで出してくれる大貫には感謝しかない。
(結構荷物多いんだな…)
高校を卒業してから定期的な運動等していない。学生時代は体育等あった為にそれなりに身体を動かしたいたが今はもうだいぶ鈍っているだろう。
そんな事を思っていれば、不意に目の前に手が出された。
細く長い指。
急に現れたそれに、びくっと身体を揺らしその手を眼で辿れば行き着いた先には律。
「…え、何、どうしました?」
「荷物」
「は?」
「荷物重いなら持つけど?」
ーーー何ですと?
今この美丈夫は荷物を持つと言っているのだろうか。しかも、帆高の購入した、帆高の物を。
言ってしまえば他人の荷物を。
何故?
いやいや、持たせる訳が無い。
むしろ、そちらのを持たせていただいても構わないくらいだ。
ぽかんとして見上げた先の顔が訝しげに揺れるのをこちらも不審気に見返せば、若干律の形の良い眉が動いたように見える。
「いや、恋人なら荷物くらい持とうかと、」
「ちょ、律さんっ」
いきなり何を言い出すかと思えば。
予想外過ぎる。斜め上どころか、突き抜けて見えない彼の意図は帆高を動揺させるには十分なものだ。
「こんな所でいきなり暴露大会は辞めて下さいよっ」
「は?何で?昨日から付き合ってるじゃん」
「そ、そうだけど、」
ちらっと残りの二人を伺い見れば、何やら寝袋のコーナーで大貫から熱い談議を受ける大海の姿にほっと露骨に息を吐いた。
「まだ誰にも話てないんで、その…しばらくは俺らの事内緒にしません?」
「大貫にも?」
「そ、そうっすね…出来たら」
こう言っては何だがつい最近まで幼馴染の恋を応援していたと言うのに、それを差し置いて友人の思い人の友人をゲット、なんてあまり聞こえが良い物では無いように思ってしまう。
大海は絶対に思わないだろうが、自分だけでなく大貫まで利用したと誤解されてもおかしく無いと不安視してしまう。
考え過ぎと笑われるだろうが、意外と小心者だったりする帆高は少しだけ伏せた眼を律へと向けた。
「…帆高はそっちがいいんだ」
「まぁ…」
それに、シンプルに恥ずかしいと言うのが一番大きな理由かもしれない。
恋愛経験が無い故か、まるで付き合いたての男子中学生のように彼女と一緒に下校するのが照れ臭い、その感覚に近いのだろう。
「ふぅん」
「逆に気を遣わせるかもしれないっすけど、すみません」
もしかして意外にも恋人はオープンにしたいタイプなのだろうか。
友人達とわいわい絡んでくれる方が良いとか。
だったら申し訳ない。
帆高はそう言うタイプでは無い。大海とは違うのだ。コミュ力もそう高くはない。
ある程度の流れに乗り、勢いが付けばアグレッシブに動ける事は出来るがそれまでが長いと言うか。
きゅっと唇を噛み締め不甲斐無さを感じるも、
「それならそれでいいけど」
「ありがとうございます…」
然程気にもしていない風の律にへらっと思わず浮かんだ笑みからは安堵が洩れる。
「お前変わってんね」
「そ、そうですかね」
しかも、律までふふっと眼を細める様子に見惚れる始末。
母がよくDVDを観ながら、
『やだ、こっち見たっ!!いやあああああ笑顔がかわいいぃぃぃぃ!!世界が平和になるぅぅぅ!!!この子によって征服されるぅぅぅぅぅ!!!!』
と、咽び泣きながらペンライトを振っているがあの気持ちがよくわかる。
決してペンライトは購入しまい。
何かある度に持てる全ての力を振り絞って振ってしまいそうだ。
ある程度買い物も終わらせ、腹が減ったと訴えたのは大貫だ。
勿論それに大海が反対を唱える事もなく、帆高も律も同意すると、では気の変わらないうちにと早速大貫はスマホで店を予約。
案内された店は個室のある焼き肉屋で、店内に入った瞬間から肉の焼ける香ばしい匂いと音にそれなりに腹は減っていたのか、急激に食欲がそそられる。
おすすめだと言われる肉を注文し、飲み物もオーダーした頃、律はトイレ、大海は電話だと席を離れた時だ。
「なぁ、公文」
不意に声を掛けて来た大貫がこほっと咳払いをしてみせた。
心なしか、若干狼狽しているようにも見える。
「はい?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけどさ、」
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