それはそれ、これはこれ

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大体どこも歓迎会等、主催した側が飲みたいだけ、なんて事はあるあるだ。 例に漏れず、この歓迎会も最初は自己紹介等から始まり、コウの挨拶、帆高への労いの言葉、そして乾杯を得て、数時間後にはすっかり無礼講からのただの酔っ払いの集いへと。 二十歳未満は帆高のみ。 ソフトドリンク片手に大人達の乱れていく様を顔面を引き攣らせながら眺めると言う貴族の遊びになってしまった。 勿論悪い意味での乱れ方では無く、あくまでも楽しいお酒の楽しみ方と言うもので、気さくに帆高へと話を振る者も居れば、向こうからも笑顔で挨拶と握手を求めてくれると言う親しみやすさに、緊張していた帆高も終わる頃にはだいぶ打ち解ける事ができたようだ。 事務員の女性もバイトの女性もこの煩さになれたもので、コップ片手に女子トークに華を咲かせていたらしい。 「それじゃ、二次会行く人ぉぉぉぉ!!!」 三時間程の一次会を終えたばかりだと言うのに、すぐに二次会会場を押さえた様子のコウに続き、他の人間達も一斉に『はーい!!!』と手を挙げる中、帆高はそろりとその輪から身体を外した。 「二次会行かないのぉ?」 「え、あぁ、俺はもういいかな、って」 黒髪の似合う色白美人と言う言葉が似合う同じバイト仲間である唯一の女性がふふふっと唇を持ち上げる。 ここのバイトは顔で選んでいるのではと疑いたくなる程の美貌だが、掴み所の無い雰囲気とさばさばとした態度にあっけらかんとした物言いは嫌いではないな、と言うのが帆高の感想だ。 「まぁ、あたしも女子だけで次行くからいいけど」 「女子会っすね」 「そうそう、殿方とはここでお終い。じゃ、また仕事でね。バイバイ」 軽やかに手を振り、長い黒髪を揺らしながら事務員の女性と颯爽に去っていく背中も真っ直ぐ。 高いヒール。 よく転ばないものだ。 ひらひらと手を振り見送る帆高がそんな事をぼんやりと思っていると、今度はがしっと肩に重みが掛かった。 「よし、二次会行くぞー、公文っ」 「え、え、ちょ、」 もう一人のバイト仲間の男性もそこそこに可愛らしい顔立ちをしている。 帆高より小柄、酔っ払いと言うのもあるのだろうが、首に腕を回しぶら下がり、抱っこちゃん状態の彼はこう言った仕草が似合うし、可愛らしい。 憎めないタイプの甘え上手で実際人懐っこいのだろう。 「お、俺はパスです…、もう十時回ってるし、」 「えーっ、お前の歓迎会なのにぃ?」 それを言われると、一瞬言葉を詰まらせるも、 「ごめん、濱田さん。コイツ連れて帰るわ」 「わ、吉木だぁ、人さらいじゃーんっ」 ぐいっと腕を引かれた先は律の背後。 眼を見開く帆高の前では律が酔っ払いのバイト仲間、濱田の首根っこを掴み、二次会組の元へと放り、何やら一言二言会話するとすぐに帆高の元へと。 「え、っと、」 「俺も帰る」 「二次会行かないんすか?」 「…お前の歓迎会でお前も行かないのに、俺が行かなきゃいけない理由なくね?」 そりゃそうだ。 あぁ…っと頷けば、口が空いたままと笑われる。 二次会組に頭を下げ、コウからも笑顔でお疲れーっと手を振られると、そのまま律と最寄り駅へと歩き出した。 ほんのりと香るアルコールの匂いは律の元から。 「どれくらい飲みました?」 「生二杯と、サワー三杯くらい?おすすめ果実酒と…焼酎もコウさんが進めて来たな」 「へ、ぇ」 三時間と言う時間の割に意外と飲んでいる。 その割には顔色も変わって居なければ、しっかりとした足取りはふらりともしていない。 アルコール等飲んだ事も無い帆高からしてみれば、一体どれくらい飲めば先程の大人の様になるのかは分からないものの、律の飲酒量も少なくは無いのでは?と想像するも、 「あの人等明日は使いモンにならねーかもな」 そう笑う姿にそんなに酔ってはいないようだ、 「で、うち来る?関係進めてみる?」 「…………ひいぁ」 いや、酔っ払っている。 これはどう見ても、360度回って見ても立派な酔っ払いとして成長していらっしゃる。 そうでないと、普通聞くだろうか。 関係進めてみる?なんて。 そこら辺に居る一般人がこんな事聞いてみろ。即通報からの留置所行き、接近禁止命令までが人生ゲームよりもスムーズに行われる筈だ。 けれど、 「帆高?」 「あ、ぁ…あぁ、え、っと、」 「来ると思って部屋着とか用意してきたけど、」 「行きますっ!!!」 食い気味に返事をしてしまった事しか後悔は無い――――。 「で、今日はキスでもする?」 「―――――ぅぐ…っ」 二回目の律の家。 玄関に入るなり、掛けれた言葉に何処から出たのは分からない声が帆高から飛び出るも、至って気にもしてない様子の律は靴を脱ぐと視線だけをこちらに寄越した。 「えー…っと、」 付き合っている恋人の部屋にお呼ばれしてくると言う事はそう言う事なのか。 足りない、明らかに足りない。 血では無い、経験値。 では、何で補うべきか。 「あ、あの、ハグから、で、いいでしょうか」 「いいよ、おいで」 そう、復習だ。 取り合えず、ウェルカムされている律の元へ手を伸ばし、ぎゅうっと背中に腕を回せば、感じていたアルコールの匂いがもっと濃く香ってくる。 「お疲れ様」 「律さんも、お疲れ様です」 その中でも感じる律だけの匂いは今日も鼻孔を擽り、少し高い体温も重なり、うっとりと眼を閉じてしまいそうになるも、頬に手を当てられ、はっと眼を見開いた。
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