玉子の見分け方

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ところで、フォーマルスーツを着て何があるのかと思いきや、 『結婚式のサクラってやつだね。知り合いの派遣会社の方から二、三人足りないって連絡があって。他の子は現地集合だったんだけど、りっちゃんは依頼書受け取りや衣装レンタルもあって事務所に寄って貰ったってわけ』 ほうほうと頷く帆高も依頼書を貰う中、くいっと引っ張られた服の裾。 『…終わったら飯食いに行かないか』 王子様スタイルでそんな事を言われ、頷かない訳が無い。 光の速さで食い気味に頷き、律を送り出し、ようやっと帆高も自分の依頼を確認する。 (結婚式かぁ…つか、招待客を依頼するって…何があってそうなんったんだかな…) 色々と人には事情があるもんだ。 そう、自分のように、 「……………社長」 「あ?どうした?」 「いや、どうしたじゃなくて…何すか、これ…」 「あ、あぁ、今日の依頼な。それ、そのまんま。デートの相手として練習台になって欲しいって」 「でーとの相手…、」 こう言ったのは初めての仕事。 流石に帆高もうぅ…っと顔色を悪くし、コウへと縋る様な視線を送るも、それは軽く一蹴。 「大丈夫だって。相手の希望通りだもん、公文くん」 「き、希望?」 「身長170センチ以上、顔は可もなく不可も無く、清潔感のある人で、それなりに逞しい感じってやつ。どうよ」 「どうよ、って言われても…本当に顔は重要視してないんすか?嫌っすよ、俺…面と向かってチェンジとか叫ばれるの」 最悪トラウマになってしまうかもしれない。 それにこちらだって女性とのデートなんてした事無いと言うのに不適合が過ぎる。 「うん、だって写真でオーケーは貰ったし」 「……」 一体何時の間に写真なんて。 問うてみたいがそれももう今更だ。はぁ…っと重い息を吐き、帆高は仕方ないとこれまた重々しく腰を上げると、行ってきます…っと呟いた。 待ち合わせの公園にやって来たのは予想以上に可愛らしい女性だった。 ショートボブの髪に揺れる猫のピアス、小花柄のミニワンピースに華奢なヒールサンダルがよく似合う。 「よ、宜しくお願いしますっ…!」 「こちらこそ、宜しくお願いいたします。公文と言います」 デートの練習と言っても簡単なもの。 一緒にショッピングから始まり、ランチをして、またぶらりとひと歩き、その後お茶をしつつ、最後はまたこの公園で解散。 (まぁ…確かにこれなら俺でも出来そうだけど…) 高いスキルは必要とされないようだが、ちらっと見遣った隣の依頼人はガチガチに緊張しているのか、顔色も優れなければ先程から余計に力が入っているらしく肩が上がりっぱなしだ。 (確か、名前…) 「あ、あの、えっと、山田さん?」 「は、はいっ!」 声を掛けただけでこんなに声まで裏返って…。 「あまり緊張しないでリラックスしていきましょうか…その、じゃ恋人らしく俺の腕に手を回して貰う、とか」 「あ、はい…」 おずおずと帆高の腕に人の体温が絡む。 柔らかい、もちっとした女性の腕。香る匂いも女性らしい甘い香水が鼻を擽る。 (…女の子って感じ) ふっと見えないように苦笑いを浮かべる帆高は、彼女の歩調に合わせる様に足を進めた。 よくよく話を聞けたのはランチの時だ。 依頼者に似合う服と靴を選び、近くのカフェに入ってからの事。 「じ、実は、デートが来週あるんです…バイト先で知り合った人なんですけど…そのお恥ずかしながら私今迄男性と付き合った事が無くて…」 「なるほど」 「中高が女子校って言うのもあって免疫が無いって言うか、いらない人見知り発動しちゃうって言うか…」 「あー、あるよね。そう言うの」 敬語は恋人らしく、相手の緊張を解す為にも避けて、とのマニュアル通り。物腰の柔らかい粗野な物言いを避けつつ、相手に同意する。 「初めて見た時から、いいなと思ってた人だから幻滅されたくないし」 「わかるわかる」 (だよなー…やっぱそう言うもんだよな) 誰だって気になる人に嫌われたくはない。 一緒に居て楽しいと思って貰いたい、笑顔を見ると嬉しくなる。 触れてもらえるとドキドキしてたまらない。 誰を思い浮かべているのか、うんうんと頷いてくれる帆高に依頼人もぱぁっと表情を明るくさせると、ふわりと笑ってみせた。 「だ、だよね、だって好きな人だもんね」 「うん、好きな人、」 ーーーーーーあ? 「好きな人とは触れたくなるし、今度のデートでは手を繋ぐのが目標なんです、が、頑張りますっ!!」 「が、んば、って」 ぐっと拳を握る彼女に釣られ、こちらも拳を握るも帆高の心臓が忙しなく動き出す。 先程まで脳内に浮かんでいたのは全身像。それが『好きな人』の単語で一気にズーム、あの美しい顔がどんっと帆高の思考を占める。 (触れられると、嬉しい、) だって、推しから触れられたら嬉しいと思うのは当たり前のこと。至福の極み。 でも、 ーーーーー触れたい、と思う。 (あ、れぇぇ〜……????) 「え、だ、大丈夫ですか?」 「だいじょう、ぶ、です、」 顔を覆う帆高に心配そうな声が掛かるも、正直それどころではない。 ーーーーーーなんて事だ。 触れたいなんて、思ったら、 (そんなの、推しじゃなくねぇ…?) 乙女ポーズに、震える肩。 それに加え、 「顔、すっごい…真っ赤ですよ、本当に大丈夫ですか?」 ーーーーー大丈夫じゃなさそうだ。
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