甘い蜜は飴に非ず

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見た事もないくらいに赤く少し腫れた乳首に羞恥から歯軋りするも、次に気になるのはシーツに隠れたその下だ。 そろり… シーツを捲り、細目で奥を見遣れば固まる思考と身体。 第一印象を言えば、 (ぐ、っちゃ、ぐちゃ…) 主に白い残滓で――。 固まり切ってしまったものから、まだ真新しいモノはとろりと内股を流れている。 言わずもがな、内股部分もその周辺も肌色の範囲は少ない。その中でこの白い色が目立つのも仕方ないが気付いてしまえば不快感にぐぐぐぐっと帆高の眉間に深い皺を作り出した。 律はきちんとゴムを使用していたと記憶している。と、なるとこれはほぼ帆高のモノ。 まぁ、流石十代、元気の証ね、なんて慰めにもならない。 そしてまた新たに気付いた熱はもっとその奥。 (あぁ…ぁぁぁぁ…) 律を受け入れた、その場所。 痛みもそこそこだが違和感が半端ない。まだ何か異物がそこにあるかのような感覚に思わず腰を浮かしてしまいそうになるも、上手く動ける筈も無く、ただ頭を抱えるだけの帆高はまた唇を噛み締めた。 「あ、起きてんだ」 「あ、お、おは、…!!」 そこにタイミング良く扉を開けた律の声。 思わず弾かれたように顔を上げた帆高だが、詰まる挨拶と同時にごくりと喉が鳴る。 つやつや、と言う言葉が似合う、いや、すっきり、だろうか。 いつもキラキラとした擬音が自然と脳内に発生する律の顔だが今日はまたそれに磨きを掛けて爽やかさがプラスされたように見えるのは気の所為か。 「おはよ」 「あ、い、」 返事にもならない声は空いた口がそのままだからだ。 今日も恋人は綺麗、かっこいい。 好き。 月並みな言葉しか出てこない自分の語彙力の無さを悔いる余裕も無い帆高に律はふっと柔らかく笑うとベッドへと近付くと腰を下ろした。 「身体は?」 「え、あ、あぁ、大丈夫です」 「意外と丈夫だな」 「そ、そうっすかね」 意識したも他人から言われた事も無いが褒められているよな?とヘラリと笑って見せれば律からの軽いキスにむぐぐぐっと喉から不可解な音が鳴る。 「丈夫だろ。五回もやったのに」 「――――…ご、」 五回も? え、全然記憶にない。 待って、ではどこまで覚えているのかと問われれば、挿入された時の圧迫感ははっきりと覚えている。 息が止まるかと思うくらいの圧と内壁を削られるような感覚、逃がさない様に掴まれていた腰も砕かれるかと思うくらい痛みも走った。 ぼろぼろと自分の意思とは関係無く出てくる涙が煩わしいとも思った。 でも、それ以上に律の顔が見えないのが心許なさを感じさせ、必死に目の前の首にしがみ付いていた事も、 (覚えて…る、けど…) さぞかし律の苦労しただろう。 律よりも背は低いとは言え、華奢な女性とも違い成人男性の平均より上にある身長に体格だって普通。 体重だって人並にあると言うのに。 しかもそこからゆっくりと浅く短いストロークを繰り返されるうちに、むずむずとむず痒さにも似た焦燥に苛まれ、結局最後は強請っていた、気がする。 すぅーっと血の気が引くのを感じ、帆高は恐る恐ると律へと視線を上げればまた、ちゅっと唇に落とされるキスの甘さに酷く驚いた様に眼を見開いた。 「気持ち良かった?」 「―――は、い」 いや、よく分からんけど。 でも想像したよりも感じた痛み等は無かった。もっと、割れるだとか、裂けるだとかの言葉が脳内に羅列されていたがそんなもの気付けば綺麗さっぱりと跡形も無く消えていたのは事実。 「今洗濯してるからさ。取り合えず風呂入る?」 「え、あ、すみません、つか、俺バイトっ」 洗濯までさせ、風呂まで準備してくれている。昨夜の情事の流れを思い出していた最中、有難さと申し訳なさに一瞬混乱しそうになるが、しっかりとバイトの事を思い出す帆高に律の眼が弧を描く。 「休み貰っといた。ちょうど長期の休みをやろうと思ってたんだって」 「え、そ、そうなんっすか…」 「だから今日も泊まれば?俺世話するけど」 「いや、流石にそれは…」 もう一泊し、その上に律に世話をして貰うのは流石の帆高も気が引ける。もごもごと視線を泳がせ指先を遊ばせるもそれに長く細い指が絡むとびくっと身体が跳ねた。 「あのさ、帆高って実家住みだよな」 「あ、そう、っすね…」 実家住み云々と言う概念が無いと言うのが正しいのかもしれない。それでも大学やバイト先での話を聞いていると一人暮らしに憧れがない訳では無い。 ただ考えるのは自由でもそれを実行するとなるとかなりの労力と経済力が必要とされる事を想像するとそれだけで辟易しそうだ。 しかし今なぜその話題を? ハテナマークを王冠のごとく纏わせ律へと視線を向ければ、代わりに返される微笑み。 何だろう、ゾワゾワする、 「俺と暮らさね?」 「ーーーーー…は、」 は? 「同棲、ってやつ?」 初体験からの同棲計画。 一日で目まぐるしく変化していく日常に、眼を丸くした帆高からは気の抜けた声が発された。 「勿論、同棲も俺の初めてだから貰ってくれるよな?」 引き攣った帆高の赤い顔をそれはそれは楽しそうに細めて見詰める律の眼はふわりと甘そうで、柔らかい、砂糖菓子みたいだと思ったのは惚れた弱みと言うべきなのだろうーーー。
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