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 「はい父上。確かに出席する気はなかったのですが……あのシルヴィオがもう二十一になったのかと思うとなにやら感慨深くて……」  の部分になにやら含みを持たせたカリストは、シルヴィオの方へ身体の向きを変えると、ニヤリと口の端を吊り上げた。  「チビで泣き虫で、漏らしてばかりいたお前がこんなに大きくなるとは、私も嬉しいよシルヴィオ」    ──も、漏らしてばかりいた?  カリストの衝撃的な発言で会場のざわめきは最高潮に達した。幼少期の恥ずかしい出来事を大勢の前でばらされたシルヴィオは、顔を真っ赤にして震えている。すぐさま否定しないところを見ると、どうやら本当のことらしい。  「ああ、そういえばシルヴィオ兄上は、小さい頃下半身に締まりがなかったと乳母に聞いたことがあるよ!でもカリスト兄上ったら、いくらシルヴィオ兄上のことが可愛いからって、そんな昔のことを言っちゃ可哀想だよ!」  すかさず割り込んできたアンジェロは、爽やかに笑っているが口元はニタついている。  許されるものなら、シルヴィオの下半身に締まりがないのは現在進行形だとルクレツィアも叫びたかった。  しかし公然の場で中間子を馬鹿にするとは。いったい今、自分の目の前でなにが起こっているのだろう。  「シ、シルヴィオ様?」  小鹿のようにぷるぷると震えるシルヴィオに、ルクレツィアが声をかける。するとシルヴィオははっとして、取り繕うような笑みを顔に張り付けた。  「や、やだなあカリスト兄上ったら、本当に冗談がお好きなんだから。さあ、音楽を流してくれ!」  さっき中断されてしまった曲が再び会場に流れ出すと、“なんだ、カリスト殿下のご冗談だったのか”、“兄弟仲がよろしくてなによりだ”、“やはり男兄弟の会話は遠慮がなくて逆に微笑ましい”などと、周囲からはほっとしたような言葉が聞こえてきた。  だがルクレツィアは、さっきのカリストの言葉から明確な悪意を感じていた。  ルクレツィアに好意を持ってくれているというアンジェロがシルヴィオに喧嘩を売るのなら理解できるが、なぜカリストが?  まさかシルヴィオは、個人的に彼の恨みを買うようなことでもしでかしたのだろうか。  ──まさか、カリスト殿下の侍女にも手を出したとか!?  だとしたら本当に救いようのない大馬鹿者だ。女好きここに極まれりだ。  まさか四年も好きだった男がそこまでの愚か者だとは思いたくないが、さっきからカリストがシルヴィオに送る射殺すような視線は尋常じゃない怒りに満ち満ちている。  一緒にいるルクレツィアも当然その視線に晒されているわけで、とにかく恐ろしくてたまらなかった。曲の間中、ステップを踏みながら早く終われとひたすらに願っていた。  一曲目が終わり、会場には二人に向けて惜しみない拍手が送られる。  ──やっと離れられるわ!  ルクレツィアが繋いだ手を放そうとすると、シルヴィオはそれを強い力で握り返してきた。  「シ、シルヴィオ様?どうされました?私、お友だちのところへ……」  「駄目だよルクレツィア。ちゃんと兄上に挨拶しないとね」  「えっ!?」  「私たちの今後についてもきちんと報告しておかないと。そうだろう?」  今後?今後ってなによ?結婚するってこと?それとも“今夜私たち事実婚まっしぐらなんですよ、テヘヘ”とでも?  いやいやいやいやそれはだめ──っ!!  これからお願いします助けてくださいって頼み込む相手に向かって、結婚します宣言とか絶対に有り得ない。“馬鹿にしてるのか”って怒鳴られるのがオチだわ!  なんとかシルヴィオ様から離れなければ!
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