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 「ちょっとカリスト兄上、ずるいよ!ルクレツィア、次は僕と踊ろうね?」  カリストに手を引かれ、再び会場の中央へと向かうルクレツィアの背中から、アンジェロの声が聞こえる。  シルヴィオと踊った時は大人しかった心臓が、今は緊張でドクドクと飛び跳ねている。  背の高いカリストと向かい合うと、ちょうど彼の胸のあたりに顔がくる。彼の体温で温められた知的さと冷静さを感じさせる香水の香りが、ルクレツィアの鼻をふんわりと優しく掠めた。  周囲はカリストの踊る姿を見ようと詰め寄せた人々が円を作り、二曲目だというのに他には誰も踊ろうとしない。  ──そういえば、カリスト殿下が踊られる姿は見たことがないわ……  彼は夜会や舞踏会の類には出席しないから、当たり前と言えばそうなのだが。  見上げると、透き通る青い瞳が静かにこちらを見ていた。さっきシルヴィオに向けていたものとまるで違う穏やかな視線。  曲が始まり、一歩踏み出してルクレツィアは驚いた。ふわり、まるで足に羽でも生えたのかと錯覚するほど軽くステップが踏めるのだ。  カリストのリードは重心の移動が滑らかで、ルクレツィアが安心して次の動作に移れる。ドレスの裾が美しく揺れる様が視界の端に映り、ルクレツィアの胸が弾んだ。  こんなに上手く踊れたのは初めてだ。嬉しくて、つい笑顔になる。  ──っ!!  視線を感じて顔を上げると、ルクレツィアを見てカリストが微笑んでいた。  「そなたは軽いな。妖精のようだ」  「そんな……恐れ入ります……」  これまでルクレツィアは飽きるほど自身の容姿についての賛辞を聞いてきた。自信過剰なわけではないが、自分が美しいこともよく知っている。だからこんな褒め言葉は慣れっこのはずなのに、なぜだかとても恥ずかしくて、消え入るような声で答えるのが精一杯だった。  どうやらカリストはルクレツィアに対し、悪い感情を抱いていないように見える。アンジェロを頼ろうと思っていたけれど、もしかしてこれは絶好の機会なのではないだろうか?  恥ずかしがってる場合じゃない。しっかりしろ。ルクレツィアは思い切って口を開いた。  「殿下、あの……実は折り入ってお話があるのです」  「どうした。シルヴィオが手を出した侍女のことか」  「ご、ご存じだったのですか?」  「あれの女癖が悪いのは今に始まったことではない。だが外からは見えづらかっただろうな。外部の目が届きにくい空間でしか悪さをしていなかったようだから」  「……やっぱり……ビビアナだけではないのですね……」  控え室にいた侍女もそう。彼の部屋で待つ他の専属侍女も、みんなに手を出しているのだろう。  「そのドレスも、とある令嬢が一年前に作らせていたものを、無理に譲ってもらったのだと聞いた」  「……は?」
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