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 確かに令嬢としてあるまじき発言かもしれないが、ルクレツィアは大真面目だ。それなのに笑うなんて。しかもルクレツィアがここまでしなければならないのは、他ならぬカリストの弟のせいなのに。なんだか少し面白くない。  開いている口からちらりと見える歯並びは抜群によくておまけに真っ白だ。完璧としか言いようのない造形に、神様の不公平を感じてそれもまた面白くない。  だがカリストは曲が終わり、お互いに礼をし合うその時もまだ笑っていた。  「ルクレツィア、やはり私はそなたがいい」  「は?」  言うやいなや、カリストはルクレツィアを縦に抱き上げた。  突然の出来事に周囲を囲んでいた貴族たちがどよめく。  「ちょ、ちょっと!!カリスト殿下!?」  「皆の者、よく聞け!王太子カリストはルクレツィア・ガルヴァーニを妃に望む!」  「は!?」  「歴史上、身内の婚約者を取り上げた王がこの大陸に山ほど存在することは皆も知っているだろう。私も弟と争うことは本意ではないが、これほどの女性を見つけてしまったのだ。仕方ない」  なにそれ。本意でないならやめましょう。今すぐやめましょう。  背の高いカリストに抱き上げられたおかげで視界が良好すぎるルクレツィア。少し離れたところには父ガルヴァーニ侯爵が憤怒の表情でこちらを見ていた。ちょっとつついたら今すぐカリストに突撃しそうだ。隣にいる母は……ニマニマしている。実に楽しそうだ。  「私は自身の持つ力がどれほどのものかは理解している。だからこそ、私欲のために権力を振りかざし、人の道に外れるようなことをするつもりはない。あくまで選ぶ権利はルクレツィア嬢にある」  ん?選ぶ権利?誰をどこからどうやって選ぶって?    「私の他に彼女を伴侶に望む者がこの場にいれば遠慮はいらぬ、今すぐ名乗り出よ。しかるべき方法で我が弟シルヴィオと正々堂々戦い、彼女の愛を得ようではないか」  カリストの言葉に会場は静まり返り、人々はきょろきょろとあたりを見渡している。    「兄上!これはいったいどういうことですか!?ルクレツィアは私の伴侶になる女性ですよ!?今すぐ彼女を放してください!!」  どこかで騒ぎを聞きつけたのか、険しい顔をしたシルヴィオが、叫びながらこちらへやって来る。人々は海が割れるように両脇へ避け、道を作った。  とんでもないことになってしまった。ルクレツィアの手は無意識にカリストの上着をギュッと握り締める。  「大丈夫だ」  「ななな、なにがですか!?」  「これで私を選ぶのになんの問題もなくなっただろう?今日は男の甲斐性について一つ勉強したな、ルクレツィア」  にっこりと微笑む麗しいカリストの後ろで“ちょっと!僕もやるからね!”と叫ぶアンジェロの声が響いていたが、ルクレツィアはそれどころではなかった。      
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