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 「兄上!ルクレツィアを放してください!彼女は私の婚約者ですよ!?こんなこと許されるわけがない!!ルクレツィア、怖かっただろう?さあこっちへおいで。今夜は私の身の潔白を確かめるんだろう?早く私の部屋へ行こう?」  「あんまり嘘をついてばかりいるとご自慢の髪がごっそり抜けるし、そのうち刺されるよシルヴィオ兄上。それにしてもそんなに雑に抱きかかえるなんて……ルクレツィア、カリスト兄上は女性の扱いってものを知らないんだ。嫌だよね。ほら、僕があの日みたいに抱いてあげるからおいで?」  「ルクレツィア、そなた今日はもう帰れ。私が正門まで送ろう」  ぎゃんぎゃんと喚く男たちの声が頭の中で木霊する。  ──ほんっっとにどいつもこいつも勝手なことばかり言って……王家の教育方針ていったいどうなってるわけ!?  意識が完全に浮上する直前、まるで走馬灯のように昨夜の光景が流れていく。それに向かって盛大に悪態をついた瞬間、ルクレツィアは覚醒した。  いつもの天井が目に入り、我に返る。  カーテンの隙間から差す光が強い。疲れていたせいか、いつもよりだいぶ寝過ごしてしまったようだ。    「とりあえず……なんとか無事だったわね……」  乙女の大事な純潔も、侯爵令嬢としての体裁も、ひとまず無事だ。だがそこに至るまでの経緯については、よかったのか悪かったのかまた別の話だが。  昨夜。  あれだけの騒ぎを起こしたにも関わらず、カリストはろくな後片付けもせずにルクレツィアを抱えたまま歩き出した。もちろん二人の弟のおまけつきで。  カリストは正門に着くまでの間、やれ自分が抱くだの手を放せだのとうるさい弟たちに無視を決め込んで、結局ずっとルクレツィアを離さなかった。  執務室にこもってばかりいるという彼には、逞しいというイメージがまったくなかった。けれど、意外にがっしりとした筋肉質な身体つきなのが衣服の上からでも伝わってきて、なぜだか心臓がとてもうるさかった。  夜会の会場から正門までの道のりを、ドレスの重みも加わった成人女性を抱え、休憩もせずにたどり着くなんて。鍛えてるアンジェロはともかくシルヴィオには絶対に無理だろう。これにはルクレツィアも驚いた。  それにしても、しかるべき方法で正々堂々戦うとか言っていたが、そんなこと絶対にシルヴィオは承知しないだろう。  ──四年も夢中になっておいてこんなことを言うのもなんだけど、シルヴィオ様っていったいなにができるの?  そういえば、特別なにが得意だとかは聞いた覚えがない。話は上手かった。あとエスコートも。でもそれって全部女性関係じゃない……本当にろくでもなさすぎるわ。  まさか女性を口説き落とす方法を競うとか?まさかね……  そんなことを考えていたら、控えめに扉をノックする音が聞こえてきた。  入室を許可すると、やってきたのは侍女長のマグダだった。    
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