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 「シルヴィオ殿下は未だルクレツィア様がご自身に夢中であると信じていらっしゃいます。その……こちらの下着類は“これを着た君が早くみたい”というシルヴィオ様なりの愛情表現でいらっしゃるようで……」  言いながら表情が死んでいくリエト。こんな阿呆なこと言いたくなかっただろうに。仕事に忠実で偉いというかなんというか。  「……リエト卿、昨夜私が着ていたドレスについてなにかご存知ですか?」  リエトの身体が僅かに揺れたのをルクレツィアは見逃さなかった。  「知ってらっしゃるのですね」  もう隠しきれないと思ったのか、リエトは深い深いため息をついたあと、力なくルクレツィアの顔を見た。  「ルクレツィア様はなにもかもご存知なのですね?……確かにあれは、アストーリ侯爵家アラベッラ様のドレスです。ランベルディ公爵家のカーラ様がシルヴィオ様の部屋を訪れた際、アラベッラ様とカーラ様のご兄弟とのご婚約のことが話題となり、シルヴィオ様はあのドレスの存在を知りました。ビビアナの一件でルクレツィア様の気持ちが離れるかもしれないと焦ったシルヴィオ様は、カーラ様に頼んでアラベッラ様のドレスを譲っていただいたのです」  「ちょっと待って……ですって?そんな……なんて非常識なの」  王族のごく私的な空間に、婚約者以外の女性を招き入れるなんて。非常識にも程がある。  「そう……あのワカメ頭、最悪の事態を想定してカーラ嬢もキープしてるわけね。どうりでランベルディ公爵令嬢ともあろうお方が婚約者も作らずこの年まできたわけだわ」  ルクレツィアの母は四年前のことを語りだした。  「どうしてワカメがカーラ嬢をエスコートすることになったのかというと、王族と婚姻関係を結びたいランベルディ閣下の思惑ももちろんあったのだけれども、カーラ嬢の強い希望でもあったのよ。そうよねリエト卿?」  リエトは黙って頷いた。  「カーラ嬢もルクレツィアと同じで、ワカメの甘い顔と雰囲気にやられてしまった一人よ。けれど彼女があなたと唯一違うところは、ワカメが他の女に目を向けたのに魔法が解けなかったところね」  「じゃあカーラ様はあれからもずっとシルヴィオ様のことを……?」  リエトを見ると、やはり黙って頷いた。  「ドレスのことは、カーラ嬢からすれば面白くない話だったでしょうけれど、ドレスの出処がバレればあなたに大恥をかかせることができるわ。万が一にもシルヴィオ殿下に害が及ばないよう“あれはルクレツィア様がわがままをいってアラベッラ嬢から取り上げたのだ”と噂を流せばあなたは社交界でも悪評まみれ。ざまあみろってところね」  まさかシルヴィオとのことを今でもそんなに恨まれていたなんて。とっくに終わったことだと思っていたのは、どうやらルクレツィアだけだったようだ。  「そうなのね……じゃあシルヴィオ様はカーラ様と結婚なさればいいんじゃない?カーラ様ならシルヴィオ様の浮気も目を瞑ってくれるかもしれないじゃない」  「あのワカメはカーラ嬢じゃ駄目なのよ」  「どうしてお母様?ランベルディ公爵家は家格も我が家より上だし、なによりカーラ様がシルヴィオ様を愛してる。シルヴィオ様にとっていいことずくめじゃない」  「リエト卿、あなたも理由ならよくわかってるわよね?ルクレツィア、問題はカーラ嬢の顔面よ」  「顔……面……」  「見目麗しい女性を隣に侍らすことの優越感から抜け出せないのよ。それにあなたのお父様には地位も財力もある。あの卑屈なワカメ頭にとって、あなたは完璧な存在なの。手放せるわけがないわ」  「優越感……それに卑屈って……そんな感情を抱く必要ないじゃない。シルヴィオ様は第二王子、誰よりも尊い存在じゃない」  これにはリエトが口を開いた。  「……シルヴィオ様が少なからずご自身に劣等感を抱いておられたのは事実です。なにをやらせても人並み以上、天賦の才と囃し立てられる長兄カリスト様と、愛らしく誰をも魅了する天使と謳われるアンジェロ様の間に挟まれ、長い間葛藤されていたのは誰よりも私が存じ上げております」    
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