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 リエトは尚も続けた。  「シルヴィオ様は確かにルクレツィア様のことを愛しく想われていました。ですがその……言いにくいことですがシルヴィオ様とて健康な男子です。愛しく思えばこそ大事にしたいという気持ちと多少の触れ合いを望む気持ちがせめぎ合うもの。ですがガルヴァーニ侯爵は常日頃シルヴィオ様に対し圧をかけておられたので……」  「お父様が……シルヴィオ様に圧を?」  いやまあ、あの父のことだから有り得るというか、そのくらい当然やってるだろうなとは思っていたが。  それに対し母が呆れたような声で口を挟む。  「あなたったらちょっと殿下の手に触れただけでも嬉しそうにキャッキャと夕食の席で喋っていたでしょう?あの人ったらそのたびに歯茎から血が出るほどギリギリと悔しそうに歯噛みして……多分用もないのに王宮まで行って、無理矢理面会取りつけて圧をかけてたのね」  確かにシルヴィオはルクレツィアの身体に一切触れようとはしなかった。  それでもなにかの拍子に指先が触れ合ったり、エスコートを受ける際にその手に触れた時は嬉しくてたまらなくて、帰ってきてはみんなの前で騒いでいた。  シルヴィオも、そんな風に思ってくれていたのだろうか。  「夫人のおっしゃる通りです。だからといって浮気をしていい理由にはなりませんが……その、ビビアナのことやカーラ嬢のことは、シルヴィオ様なりのささやかな反抗というか仕返しというか……憂さ晴らしというか……とにかくそんな事情もあって……」  リエトの言うとおり、例えどのような事情があったからといって、婚約者を裏切っていい理由にはならない。  だが心にはなんだかもやもやとしたものが残る。真実を話すことはリエトなりの誠意だったのかもしれないが、聞かなかったほうがすっきりさっぱりお別れできたような気がする。  「……シルヴィオ様はやり方を間違えてしまいましたし、浮気心に負けたといえばそれまでです。ですが本当は誰よりもわかっていらした。ルクレツィア様が身分など関係なしにご自身を慕ってくださっていたことを」  そう言われてルクレツィアはギクリとした。  自分だってシルヴィオの外見しか見ていなかったから。彼を王子様だと信じ込んで、これまでずっと理想の王子様を演じさせていたのかもしれない。  シルヴィオは、本当はルクレツィアの求める完璧な王子様であることが嫌だったのかもしれないのに。  「……婚約のことも含め、落ちついたら一度きちんと話をしましょうと伝えて貰えますか?」  ルクレツィアの言葉に、リエトはほっとしたような笑顔を見せ頷いたのだった。
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