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「カリスト殿下、オリンド、ただいま戻りました」
ルクレツィアへの贈り物を届けるという、本人からしたら不満極まりない任務を終えたオリンドが、カリストの執務室にやってきた。
「ご苦労だったな。ルクレツィアはなにか言っていたか?」
「ルクレツィア嬢にお会いすることはできませんでした。昨夜の疲れから、まだお休みになられているということで……」
「なんだ?なにかあるのか」
オリンドは苦虫を噛み潰したような顔をしている。だがカリストから発言の許可が出た途端、堰を切ったように喋りだした。
「王太子殿下から直々に贈り物を賜るという栄誉に、部屋で眠りこけて挨拶にも来ないとはいったいどういう了見なのか……!!それにあの父親……ガルヴァーニ侯爵の厭味ったらしいこと!!あまりの無礼にほんの少し苦言を呈したところ“突然の訪問などと……普通でしたらありえませんからなぁ”とか笑顔で言い返してきやがってまあ憎らしいったらありゃしない……!!」
カリストと側近たちはガルヴァーニ侯爵に対し不満を漏らすオリンドの言葉を黙って聞いていたが、皆一様に“お前の憎たらしさもなかなかだけどな”と思っていた。
彼はこのエルドラ王国内でも一二を争う皮肉屋だ。五指には必ず入ってる。もちろんガルヴァーニ侯爵も堂々のランクインだが。
「ガルヴァーニの言うことは正しいよ。あれだけの量のものをなんの知らせもなしに送りつけたんだ。しかも朝一番で。無礼はこちらの方だ」
「しかし殿下!!」
「私の気が急いてしてしまったことだ。そなたもすまなかったなオリンド。よく引き受けてくれた。さすが自慢の近習だよ」
「まあ……」
オリンドの頬がポッと赤く染まる。
男色家ではないのだが、彼は初めて対面を果たした日から今日までずっと、カリストを神のように心酔し、崇拝している。
カリストもそれをよくわかっているから、飴と鞭をうまく使い分けて彼を教育している。
「オリンド、この書類が片付いたら少し付き合え」
「つ、付き合う!?」
「ルクレツィアに選ばれるために少し身体慣らしをしておかないとな。久しぶりに本気でやるぞ」
「身体慣らし!?本気でやる!?ええっ!?」
両手で頬を押さえて悶えるオリンドはもう一度言うが決して男色家ではない。
「あの、オリンド卿?騎士団に訓練場を使用する話は通しておきましたので……」
カリストの側近が耳打ちするとオリンドは我に返り、少し残念そうな顔をした。
もう一度言うが彼は……以下略。
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