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「やあ。ステラ。パスールさんの調子はどうだい」
近所のワイン農家のサブが、自分の少ない物資を切り詰めて調達したハムとチーズをおすそ分けをしてくれた。
「まあ、まあ。サブさん、よろしいのですか」
「ああ、ワインの病気を早く突き止めてほしいんだ。なにか原因があるんだろう。きっとパスールさんなら対策の仕方を見つけてくれる」
「そうですね」
サブは喜んだ。しかしステラは顔では優しく笑っているが心では心配で仕方がなかったのだ。
パスールがワインの病気の原因を研究をしていると知った近所の人達は、おおいに期待し、サブのように夫を囃し立てては帰っていくのだ。
パスールは期待に答えようと、研究に没頭した。しょっちゅう部屋に閉じこもり、夜遅くまでランプは消えず、かれこれ三日三晩、まともに食事も睡眠もとっていない。
それがステラには心苦しく、いつか夫が倒れるのではないかと思いつつ、黙って見守っていた。
「こんにちは、パスールさん」
「やぁ、アレン。今日も暑いね。ところでちょっと、ぶどう畑の様子を見せてもらうよ」
パスールの日課にはぶどう畑の様子とワイン樽の様子。ワインセラーの様子を見て回ることも含まれていた。病気の原因がどこに潜んでいるかわからないからだ。
ぶどう作りは一年を通して休むことがない。
霜対策に追われ、春になり芽が伸びたら生育状態を見極め、剪定しワイヤーなどで固定する。薄黄色の花が咲けば受粉の手助けをする。6月頃に開花し結実した実は、照り付ける太陽のもと肥大し成熟するのだが、ぶどうを均等に成熟させるために栄養が行き届くようにさらに剪定する。野鳥や害虫などの対策もしなくてはいけない。そうして9月から11月にかけて収穫期が訪れるのだ。
さんさんと照りつける太陽がアレン農園のぶどう畑に降り注ぐ。アレンは誇らしげにパスールに微笑んだ。
「ぜひ見て言ってくれパスールさん。研究に必要なら、ぶどうをなん房か持っていってくれても構わないよ」
「ああ、助かるよ」
快く丹精込めて作ったぶどうをアレンは汗を袖で拭きながら、もぎ取り、パスールに譲った。それを大事そうにパスールは受け取る。
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