しましま

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先生の親戚にどんな風に思われようと、先生が帰ってくるわけじゃない。 だったらどう思われてもいい。 元々先生のお金なんて欲しいと思ったことはない。 ただオレは、先生の傍にいたかっただけだ。 ずっと先生と一緒に、生きていきたかっただけ・・・。 でももういない。 オレはそのまま先生に会えずに家に帰った。 どれくらい経っただろう。 オレは先生の香りが色濃く残る家のソファに座っている。 いつもここに一緒に座ってお茶を飲んだ。 たわいもない話をして、一緒に映画を見て、時々もっと仲良くして・・・。 でももう、いくらここにいても先生は隣に座ってくれない。 そう言えばお通夜や告別式はどうなったのだろう。いくらなんでも元教え子なのだから、それまで拒否はされないはずだ。 喪服、どこにしまったっけ・・・。 母の時に用意した黒いスーツをこんなに早く、また着るとは思わなかった。 それも先生のために・・・。 なんだかあまりにも全てが突然過ぎて、涙も出ない。 現実味がない。 まだ夢を見ているみたい。 時間の感覚もなくて、先生が出かけてからどれくらい経ったのかも分からない。 もしかしたらもう、告別式終わってたりして・・・。 まるで水の中にいるように視界歪み、音も籠って聞こえる。 ここに座ってから、何度か電話が鳴ったような気がするけど、夢だったのかもしれない。 本当は全部夢なのかも。 オレはずっと眠っていて、ただ夢を見ているだけかもしれない。 いつからが夢・・・? 先生に会ったこと自体が夢かもしれない。 そんなことをぼうっと思っていた時、玄関の鍵が開く音がした。 気のせい? それともこれも夢? そう思ったその時、リビングのドアが開いた。 一瞬先生が帰ってきたと思ったけれど、次の瞬間香る香りに心が落胆する。 先生じゃない。 そしてふと思い出す。 病院で親戚の一人に言われたことを。 『あの家に住んでるって?冗談じゃない。息子が帰ってくるから、すぐにそこから出ていくんだ。お前の家でもないのに図々しい。全くオメガというのはなんて卑しいんだ』 まるで汚いものでも見るように上から見下され、そう言い捨てられた。 先生の息子さんが帰ってきたのかも・・・。 そう思って振り返ると、背の高い青年が立っていた。 やっぱり息子さんだ。 だけど相変わらず視界は歪み、よく見えない。だけど年恰好がオレと同じくらいだったので、おそらく帰ってくるといる息子さんなのだろうと思い、オレは慌てて立ち上がって頭を下げた。 「申し訳ありません。すぐに出ていきますので」 早く出て行けと言われていたのに、何も出来ずにただ座ってしまっていた。何も準備は出来ていないけれど、きっとオレのことなど見たくないだろうと、オレはとりあえずバッグを手に取る。それを見て息子さんが何かを言っているけど、オレの耳にはその声も籠っていて何も聞こえない。 きっと早く出て行けと言っているのだろう。 オレはバッグを抱えると彼の横を通り、玄関へと向かう。そんなオレに息子さんがまた何かを言っている。 「すみません。すぐに行きます」 何を言ってるのかはやっぱり分からない。 でも怒っているみたいだ。 息子さんとしては、自分と同じくらいの奴が父親の相手だなんて許せないだろう。親戚同様、息子さんにもオレのことを話していなかったかもしれないし、もしかしたら話したけれど反対されていたのかもしれない。 だがらオレに息子さんの存在を言ってくれなかったのかも。 とにかく早く出ていかなきゃ。 まだ心が麻痺しているのだろう。 先生がいなくなったというのにまだ涙が出ないし、息子さんが現れてもあまりショックを受けていない。 とにかく早くオレは、彼の視界から消えなくてはいけないという思いに駆られていた。 まだ何かを言っている息子さんにオレは頭を下げた。
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