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大学だって家から通えるからあそこにしたわけだし、親子でも全然おかしくない。と言うか、なぜ気づかなかったのだろう。顔が似てなくても親戚くらいには思っても良さそうなのに・・・。
オレは改めて嶋を見て、そっとその腕の中から離れる。
「すみませんでした。恥ずかしいところをお見せして・・・」
オレは嶋を知っているけど、ただの一生徒だったオレのことなど嶋は知らないだろう。だからオレは初めて会った人の前で号泣したことになる。
「いや、気にしなくていい。こちらこそ親戚連中が失礼した。嫌な思いをさせて済まなかった」
そう言って謝る嶋に、オレは一瞬忘れていた現実を思い出す。
「・・・しかたないです」
「親父がお前のことを言っていなかったのはああいう連中だからだ。祖父が亡くなった時も遺産で散々揉めて・・・」
きっと相当嫌なことがあったのだろう。嶋は眉間に皺を寄せ、本当に嫌そうな顔をした。
「再婚するなんて言ったらお前に嫌な思いをさせると思って周りには知らせてなかったんだろう」
確かに歓迎される結婚では無い。
だってこんなに年の離れたオメガなんて、誰が見たって不自然だ。財産目当てだと言われても仕方がない。嶋だってきっとよく思ってないはずだ。
だけど、そう思ったオレの心を読んだかのように嶋が言う。
「俺は嬉しかったよ」
え?
「俺には言ってくれていたからな、お前との関係を。気になる子がいる。付き合うことにした。結婚することになった。・・・そうやって何かある度に電話してきたよ」
その時を思い出したのか、笑った顔がすごく優しい。
「ずっと亡くなった母親一筋で、俺の世話に一生懸命で、周りが見合いを勧めてもアプローチしてくれる人が現れても全く相手にしていなかったのに、まるで中学生か、てくらい余裕をなくして・・・。だから俺も嬉しかった。親父の人生、俺と仕事で終わると思ってたから」
「でも嫌じゃなかったですか?相手がオレで」
いくら父親の恋愛が歓迎でも、それが自分と同じ歳の人じゃ嫌なものじゃないの?
「し・・・嶋さんが・・・」
「天。俺は『嶋天』。嶋って呼び難いだろ?だから天でいい」
オレの言葉を遮ってそういう嶋・・・天はオレの名前を知ってるからそう言ったのか、それともただ単に苗字だと先生と同じでオレが呼び難いだろうとそう言ったのか分からなかった。
「あ・・・オレは野々瀬志摩です」
話の途中だったけど天が名乗ったのでオレも自己紹介したら、天が少し考える顔をする。
「志摩・・・も変な感じがするから俺は『のの』って呼ばせてもらう」
『のの』。それは高校時代からのオレのあだ名。
「はい。のので大丈夫です。それであの・・・天さんはお父さんの相手がオレで嫌じゃなかったですか?」
偶然かな?
だけど下の名前が自分の苗字と同じ音で呼び難いから、上の名前を呼ぶのは当たり前か。
「『さん』はいらない。天でいい。・・・別に嫌じゃない」
呼び捨て・・・苦手だ。
「だけどオレ、天さんのこと聞いてませんでした。だから天さんがオレのこと反対してるからだと・・・」
「だから『さん』はいらない。それから敬語もなしだ。・・・反対してない。むしろ逆。俺が親父に言ったんだよ。俺のことを言わない方がいいって。自分と同じ歳の息子がいるなんて言ったら逃げられるだろ。言うなら番にして結婚して、相手が逃げられなくなってから言えって」
オレの歳も知ってて、しかも助言もしてくれていたなんて・・・。
本当に反対してなかったんだ。
「俺は親父に幸せになって貰いたかったんだ。それに人生はまだ長いのに、一人でなんてこっちが心配するだろ?早く誰か見つけてくれって思ってたんだよ。なのに馬鹿だよな。やっと見つけたのに・・・」
天の目に悲しみが浮かぶ。
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