しましま

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「せん・・・せい・・・も・・・」 そうだった。 そう言いたいのにしゃくり上げて言葉が出ない。だけどオレの言いたいことを分かってくれた天がオレを強く抱きしめてくれる。 「ごめん。もっと早く連絡すればよかった。俺が悪かった」 充電が切れてしまったのだから仕方がない。 勝手に心配して泣いてるのはオレなんだから、天は悪くない。 そう言いたいけど嗚咽は治まってくれず、涙も止まらない。そんなオレを強く抱き締めながら、天がずっと背中をさすってくれる。 どれだけそうしてたのか、ようやく落ち着いてきたオレを促してリビングに行くと、天はオレをソファに座らせてくれた。そしてオレの前に膝を着いて、天は視線を合わせてくれる。 「どうしても今日、行きたい場所があったんだ。だけどすぐに帰るつもりがトラブルがあって電車が止まってしまって・・・。それでもすぐに復旧すると思っていたら、今日はもう動かないことが決まって。タクシーで帰るにもすごい行列で、ののに連絡を入れようにも充電が切れて出来なかったんだ。それでようやく相乗りでタクシーに乗れて、その時に一緒に乗せてくれた人が携帯を貸してくれたんだけど、もっと早くに連絡するべきだった。公衆電話とかモバイルを買ったりできたはずなのに・・・」 オレに目を合わせながら真剣に話す天に、オレは首を横に振る。 「天は悪くないよ。オレが勝手に心配になっちゃっただけ」 「いや。早く連絡するべきだった」 そう言うと天はオレの手を握った。 「ごめん。ののをもう泣かさないって誓ったのに」 オレの手を握ったまま頭を下げる天に、オレはもう一度首を横に振る。 「無事だったから・・・帰ってきてくれたからいいんだ」 それだけでいい。 天が謝る必要なんて全然ない。 すると天はオレの手を離し、そのままオレの前に腰を下ろした。 正座した天はオレよりも低くなり、天がオレを見上げる。 「今日、親父の所へ行ってきたんだ」 背筋を伸ばして改まって話し始めた天に、オレも居住まいを正す。 親父の所って、先生のお墓? 「どうしても親父に報告してから、ののに伝えたくて・・・。のの」 覚悟を決めたような顔と声で名を呼ばれ、オレも真剣に天を見る。 「ののがどんなに親父が好きかを知っている。アルファに頼らず生きていくという考えを変えさせ、あんなに嫌がっていた『嶋』姓も気にさせないくらい親父のことが好きで、この2年の間もずっと変わらずに思い続けていることも分かってる」 じっとオレの目を見つめ、天が真剣に言葉を紡ぐ。 「だけど俺は、そんなののの傍に居たかった。そしてののの心から親父が消えて・・・いや、絶対に消えることはないと分かっていたから、親父でいっぱいのののの心にほんの少しでも俺が入る隙間が出来ればいいと思ってた。だけど、ののの心はいつまでも親父でいっぱいで、俺の入る隙間なんてなかった。でもそれでもいいと思ってた。ののの傍にいられるのなら、それでも構わないと思ってたけど・・・」 そこで言葉を切った天は、一瞬言うのを躊躇うような顔をする。けれどすぐに口を開いた。 「ののがここから出ようとしていることを知ってる。ここを出て、俺から離れようと・・・。だったら・・・俺の気持ちを言っても言わなくてもののが俺から離れるのなら、俺は言いたい。・・・好きだ。俺はののが好きだ。このままののの傍にいたい」 オレの目を見据えたままそう言う天の言葉に、オレは自分の耳を疑う。 「え・・・だって・・・天・・・ずっと好きな人が・・・忘れられない・・・高校から・・・」 あまりのことに頭が混乱して、上手く言葉が出てこない。 忘れるためにアメリカ永住まで考えた人がいるんじゃ・・・。 「ののの事だよ。ずっと好きで、諦められなくて、忘れるためにアメリカにまで行く事にしたのは、のののためだ」 オレ? だってオレたち・・・。 「会ったことも話したこともなかったよ?」 一度も、目も合わせたことすらなかった。
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