しましま

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夢の中で先生が笑ってる。 すごく嬉しそうに。 すごく楽しそうに。 『先生、嬉しいの?』 あまりにも幸せそうに笑うからオレがそう訊くと、先生は目を細めて言った。 『とても嬉しいよ。愛する人たちが幸せになってくれたからね』 そう言って微笑む先生は、オレの頭を撫でてくれる。 『君達がいつまでも幸せに笑っている事が、僕の幸せだよ。息子をよろしくね』 そう言ってふわりと微笑む先生の姿が少しずつぼやけてきて、オレは慌てて手を伸ばす。 そしてそこで目が覚めた。 温かい体温と安心する香り。 オレは天の腕の中にいる。 寂しくて抱きしめてもらった夜も、オレが眠ってしまうとそっとベッドに寝かせてくれていた天と、朝まで一緒に過ごしたことは無い。だからこうして天に包まれて目を覚ましたのは初めてだ。 規則正しい心音が聞こえる。オレは天の胸に頬を寄せた。すると頭に優しい感触。 「おはよう。のの」 天がオレの頭に小さくキスをする。 そんな天に、オレはもう一度頬を擦り寄せた。 「先生の夢を見た」 「・・・親父はなんて?」 「いつまでも幸せに笑ってることが幸せだって」 その言葉に、天の腕に力が入る。 「ならいっぱい幸せにしなきゃな」 「天もね。・・・よろしくって言われちゃった」 そう言ってオレは天を見上げた。 「二人で幸せになるんだよ」 「・・・そうだな。二人で幸せになろう」 天はそう言うとオレにキスをした。 それからオレたちはいつもの日常に戻った。 一緒にごはんを食べて、一緒に出勤する。だけどいつもと違うのは、オレたちはただの同居人から、恋人同士になったこと。 でも見た目はどこも変わらない。と思ってたけど、出勤した会社で、みつに秒でバレた。 「あぁっ。ののがてんちゃんのものになってるっ」 会社に入るなり、おはようの挨拶をする間もなくそう叫んだみつ。その声にびっくりしてオレは一瞬固まってしまう。 「こら、みつ。野々瀬くんが驚くだろ」 興奮気味のみつを浅香が隣でなだめる。 「でもっ」 なんで? なんでバレたの? たしかに昨日思いを確かめ合って、キスして抱きしめ合ったけど、それだけだよ?そのままくっついて寝ただけで、まだ服も脱いでないし、物理的に繋がってもない。 「・・・分かってない顔をしてるね」 まだ興奮が治まらないみつをなだめつつ、驚くオレに浅香が言う。 「オレはいつもみつと一緒だし、ここも野々瀬くんが来るようになって一人にはならなくなったから、あんまり付けてないけど、高校の時のみつ覚えてる?みつから違う香りがしなかった?」 そう言えばみつからアルファの香りがして、それがまたオメガクラスをざわつかせてたっけ。あの香り、いま思うと浅香の香りだ。 「マーキングだよ。他のアルファが寄ってこないように、自分のオメガに香りを付けるんだ。このオメガにはアルファのパートナーがいるから近づくなって」 オメガのマーキングは聞いたことがある。そもそもアルファには興味がなかったから、オレとは全く無縁の事だったけど。 だからクラスがあんなにざわついてたんだ。マーキングされるということは、それだけアルファに愛されているっていうことで、要はみんな羨ましかったんだ。 「いまの野々瀬くんからてんの香りがするんだよ」 マーキングの話に当時のことを思い出していると、浅香が少し言いにくそうにそう言った。 ・・・へ? 「ののから物凄く濃ゆくてんちゃんの香りがするの。それって凄い独占欲で支配欲で、とにかくオレのものに手を出すなって周りを威嚇してるんだよっ」 真っ赤な顔をしてそう捲したてるみつの興奮は冷めやらず、鼻息が荒い。 どうしてそんなに興奮するのか。それを見る方は妙に冷静になってしまうものだけど・・・待って、オレから天の香りが・・・。 「ここまで露骨にマーキングしたということは完全に野々瀬くんは自分のものだと主張してるわけで、関係が変わらなかったらしないよね?だから結果、君はてんのものになったと・・・」
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