しましま

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その説明でようやくみつにバレた経緯は分かったけれど、それってオレたちが晴れてお付き合いを始めましたって、看板背負って歩いてる様な・・・感じ・・・? その姿を思い浮かべた途端、オレの顔は一気に熱くなる。 「な・・・なな・・・なんてことを・・・」 してくれたんだっ。 物凄く恥ずかしい。 恥ずかしくて恥ずかしくて・・・。 オレはその場にうずくまって顔を隠す。 帰りたい・・・。 「まあ、てんの気持ちも分かるよ。ここには透がいるしね。このマーキング、多分ほとんど透に向けたものだと思うし・・・」 と言ったところで、ドアが開く音がする。 「おはようございま・・・あっ」 いつものように元気よく入ってきた犬養くんはあいさつの途中で驚きの声を上げる。 気づいたんだ。 絶対に気づいたんだ、オレのこと。 なんなん? そんなにすぐ分かるくらい天の香りがしてるの? ものすごく恥ずかしくて顔が上げられない。 オレはうずくまったまま身体をさらに丸くした。 「あ・・・野々瀬さん・・・ついに・・・」 そう言ってなぜか犬養くんも、頭抱えてしゃがみこんでしまう。 「透・・・お前は仕方ない。・・・さ、時間だ。朝のミーティングを始めよう」 その浅香の言葉で、今日も一日の業務が始まった。 恥ずかしさであまり前を向けなかったオレはミーティングが終わるとそのまま自分のデスクに座り、なぜか項垂れてしまった犬養くんは浅香に肩を抱かれて外回りへと出ていった。そしてあんなに興奮していたみつはミーティングが始まるといつものみつに戻り、いまもいつもの通り仕事をしている。 そんなみつがありがたい。 気になるだろうに何も訊いてこないみつに心のなかで感謝して、オレは仕事に勤しんだ。 そしてお昼。 キリのいいところまでやってしまおうと思っていたオレに、みつがコーヒーを淹れてくれる。 「おめでとう」 コーヒーを置いてくれたみつが不意に言う。 「え?」 「まだ言ってなかったから。てんとの事、おめでとう。良かったね」 そう言って笑うみつにオレも笑い返すけど、恥ずかしくて変な顔になってしまう。 「あ、ありがとう」 本当に恥ずかしい。 オレは今までそういうことに縁がなかったので、どういう顔をしていいか分からない。 だれかと付き合うのって先生とだけだったし、あんまり大っぴらに出来なかったから、誰にも言ってなかった。 そう言えば先生と付き合ってた時は誰にもバレなかった。先生はオレにマーキングしてなかったのかな? 「あのさ・・・オレ、そんなに匂う?」 部屋に入ってくるなりすぐ気付くくらい匂うのだろうか? 「ん・・・まあ、かなり付けられてはいるよね。今まで全くなかっただけに、すぐに分かっちゃうかな」 今まではなかったのか。 「アルファはみんなパートナーにマーキングするものなの?しないアルファもいる?」 みつからもほんのり浅香の香りがする。 「全くしないって言うアルファもいるかもしれないけど、大抵はするかな?とにかくアルファの独占欲は多かれ少なかれみんな持ってるものだから。一見マーキングされてないと思っても、鼻を近づけるとされてるのが分かったりするし」 先生も分からないようにしてたのかな? まあ大学側の許可は取ってたけど、学生に知られると色々と厄介な関係ではあったから。 「でもここまであからさまに付けられるのはそんなにないかな」 その苦笑い気味のみつに、オレの顔はまた熱くなる。 「でも、てんちゃんの気持ちもわかるよ。ようやく思いが叶った相手を絶対に誰にも渡したくないし、ここは透くんがいるから念には念を入れたんだよね」 そう言えばさっき浅香も言ってたっけ。 「なんで犬養くん?」 フリーのアルファだから? 何気なく訊いてみただけだったけど、みつは食べていたお弁当の箸を止めてなんとも言えない顔をする。 「ん・・・と、それを訊かれると、さすがの僕も透くんにちょっと同情しちゃうかも・・・」 そう言いながら小さくため息をつく。 なんで?
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