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「あんなに一生懸命アピールしてたのに、全く気づいて貰えてないなんて・・・。まあ何となく分かってたけど」
「な、何が?」
気づくって何?
オレが?
「透くんね、ののが好きなの。だから何度も会社に戻って来て、一生懸命ののに話しかけてたでしょ?じゃなかったら、あんなちょっとの時間のために戻ってくるわけないじゃん」
な・・・え・・・?
「好き?!」
オレはびっくりして持っていたお箸を落としてしまう。
好きって・・・犬養くんがオレのこと?
「僕ね、一目惚れをする瞬間て初めて見たよ。透くんがののと初めて会った時、透くんの心がのので染まったのが分かった。凌ちゃんも分かったみたいで、あの後やんわり透くんに釘さしてたもの」
一目惚れ?
「初めて会った時って・・・別になんにもなかったよね?普通に自己紹介しただけだし・・・」
特になにかした訳でもない。
「前から思ってたけど、ののってすごく鈍いよね。それに自分のこと全く分かってないの」
ええ?
突然のディスり?
「ののさ、高校の時から結構モテてて、のの狙いのアルファっていっぱいいたんだよ。視線も集めてたし。なのに全然気づかないし、アルファからはオメガに近づいちゃいけないから直接話しかけられなくて、知り合いのオメガ使って呼び出そうとしても、のの、お誘い全部断って。クラスの打ち上げとかも一個も来なかったものね。ああいう時はね、偶然打ち上げが被っちゃったって装って特進のクラスと一緒になって、合コン的なノリになってたんだよ」
モテてって、オレが?
「アルファからの呼び出しなんてされたこと無かったよ?」
オレの記憶ではアルファに呼び出されたことはない。
それに打ち上げだって、オレ、バイトで忙しかったし、そんなことに使うお金がもったいなくて行かなかったけど、合コンだったの?
「のののアルファ嫌いはみんな知ってたから、アルファから、なんて言えなかったんだよ。だからみんな他の理由で呼び出してたけど『いま忙しいから』って断って・・・」
バイトで勉強する時間がなかったから、課題とか試験勉強は学校の休み時間にしてたんだよ・・・なんて、家の事情を知らないみつが知るはずはない。
「クラスの子、みんなアルファと仲良くなりたいから結構必死だったんだよ」
ため息混じりにそう言われても・・・。
「みつもした?」
みつからも打ち上げには誘われたことがある。
「僕は頼まれてしたことは無いよ。本当に一緒に行きたかったから誘ったことはあるけど・・・」
そこで不意にみつが言葉を切った。
「やっぱり・・・高校の時からてんちゃんが好きだったのって、ののだったんじゃない?」
呟くようなその言葉に、オレはどきっとする。それは昨日、天に言われた事だ。
「特進と合コンが仕組まれた打ち上げのとき、いつもてんちゃんが訊くんだ。『オメガクラスは全員来るのか?』て。あれ、ののが来るか確かめてたんだ。だってのの以外はいつも全員参加してたから」
みつはそう自分で言って納得したような顔をする。
「じゃあ、無事に二人が結ばれたのは僕のおかげだね」
そう言ってにっこり笑うみつ。
「昨日のの、不動産サイト見てたでしょ?それをね、凌ちゃんに言ったんだ、僕」
確かに昨日、休憩時間に不動産サイトを見ていた。自立するのに引越し先をどうしようかと、何気なく場所と費用などを見てたんだけど、それを後ろを通りかかったみつが偶然見てしまって、浅香にメッセージしたのだという。
「ののはただの同居人て言ってたけど、歓迎会の時の二人を見てたら、それだけじゃないような気がして。それで凌ちゃんに知らせたんだ」
不動産サイトを見ているということは、同居をやめようとしているのではないか。
みつは天の長年の思い人を知らないし、天の香りを全く付けてこないオレの『ただの同居人』発言も信じていた。でも、歓迎会でのオレたちの雰囲気に違和感を感じていたらしい。
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