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そう言って唇を引き締めると、今度は真剣な目をオレに向ける。
「君が好きだ。僕の傍にいて欲しい」
今度こそ間違いようの無い言葉を言われて、オレは驚きで目を大きく開ける。するとみるみる視界が歪み、涙が溢れてきた。
「もう誰も愛せないと思っていた僕の心は、君の真っ直ぐな瞳に射抜かれてしまった。この瞳が他の誰かを見ることが許せない。ずっと僕だけを見ていて欲しい」
その言葉に、オレは流れる涙をそのままに何度も頷いた。
「オレも先生が好き。先生しか見えない」
そう言ったオレを先生が抱きしめてくれる。
こうしてオレは先生と付き合うようになった。
母親が亡くなったばかりだというのに、オレの生活は幸せに満ちている。
大好きな人と思いが通じ合い、一緒に暮らせて、毎日笑いあっていられる。
そんな薄情な息子を、母はどう思っているだろう?
「喜んでるよ」
微笑む母親の写真にお花を供えながらそう言うと、先生がオレの腰に手を回しながらそう言った。
「愛する息子が悲しむ姿よりも、幸せで笑っている姿を見る方がよっぽど嬉しいものだろ?」
そう言ってオレの頭にちゅっとキスをした。
「もっと幸せにしなくちゃね」
そう言って抱きしめてくれた先生とそんな幸せな時を過ごし、オレが4年になった春、先生はオレに正式にプロポーズをしてくれた。
「君の就職先を僕のところにして欲しい。僕の奥さんになってくれないか?」
就職活動を始める学年になり、オレもそろそろ始めようとしていた矢先のその言葉に、オレはしばしぽかんとしてしまう。
だってそれは、いつもの食卓で、いつものように夜ごはんを食べているときに、いつものように翌日の予定を話していた時だったから。
確かに明日、就職説明会に行くって言ったけど・・・。
「君はアルファに依存して生きたくない。自分で使うお金くらいは自分で稼ぎたい。そう思っていることは知っている。だからバイトだって許してきた。だけど、僕だって君を養いたいんだ。君の面倒を見たい。君の全てを僕だけで包み込みたいんだ」
その場に似つかわしくない、しかもプロポーズとしてはどうなのだろう?という微妙な言葉。
だけどその真剣な眼差しと、いつもより硬い先生の声音に、オレは思わず『はい』と答えてしまった。
今思えば先生もアルファ。
しかも普段はあまりその力を感じさせないけれど、かなり力は強い。だからオレはその時、気付かぬうちに支配力を発揮されていたのかもしれない。
だけど・・・。
結局オレもオメガなんだよね・・・。
その時のオレは、先生への思いで心を埋め尽くされ、今まで感じたことも無い高揚感と多幸感でいっぱいだった。
アルファなんかに頼らないって、あんなに思っていたのに・・・。
だけどそれって、もしかしたら頼りたいと思える人に出会っていなかったからかもしれない。
オレは先生と出会ったからそう思うようになった。
先生の傍で先生と共に生きていきたい。
そして、先生の望む通りなんでもしてあげたい。
先生がオレに家にいてもらいたいと望むなら、オレはそれを叶えたい。
そして先生だけに尽くしたい。
それって先生に囲われて支配されたいってことだよね?
そしてそれは間違いなくオメガの習性で、オレもどっぷりオメガであると言うことなのだ。
以前はそんなオメガの習性を嫌悪していたというのに、実際に自分に愛する人ができてそう思うようになると幸せでいっぱいになってしまう。
なんかオレってずるいよね。
だけどいいんだ。
幸せなんだから。
そう開き直って改めて、オレは持っていたお茶碗とお箸を置いて居住まいを正した。
「これからもよろしくお願いします」
そう言って頭を下げたオレに、先生も頭を下げた。
「こちらこそ。必ず君を幸せにします」
オレたちはそうしてお互いに頭を下げ、次の瞬間笑いあった。
それはオレの人生の中で最も幸せな時だった。
先生と出会ってから、人生で一番幸せな時がどんどん更新されていく。
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