しましま

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初めて先生を見て恋に落ちた時。 初めて質問しに行った時に、オレにだけに笑いかけてくれた時。 母との別れがちゃんとできて、そっと抱きしめながら頭を撫でてくれた時。 思いが通じあった時。 そして、初めて先生と結ばれた時・・・。 あの時は大騒ぎだった。 オレはその時を思い出して笑ってしまった。 先生が告白してくれて、オレたちは確かに付き合いだしたというのに、その後一向にベッドどころかキスもしてくれない先生に、オレは不安と焦りでおかしくなっていた。 だって抱きしめてくれるのに、それだけなんだもの。 もっと言えば、それは付き合う前からしてくれていたことで、改めてしてくれたことでは無い。つまり、オレたちの関係は全く変わらなかったのだ。 抱きしめてくれるのだって、それはただのハグ。どきどきするような熱いものではなくて、心が落ち着いてしまう温かいもの。 先生の家に一緒に暮らすようになっても、オレの発情期はそれまで通り専用の施設で過ごしていた。先生とは全くそんな関係ではなかったからだ。 アルファとオメガが同じ家に暮らしていたにもかかわらず、先生はとても紳士だった。オレに手を出すどころか少しでも発情のフェロモンが出始めると、すぐに気づいて施設へ送り出してくれる。だから発情による事故など起こる訳もなく、それ以外でも全くそう言う雰囲気になったことなど一度もなかった。 その時はまだそれで良かったんだ。 母のことで頭がいっぱいで、ずっと好きだった先生の傍にいても恋愛スイッチが全く入らなかったからだ。だけどちゃんと付き合いだしてからはオレの気持ちも以前に戻り、先生への思いがよみがえっていた。それどころか片思いの時よりももっと思いは膨らんで、先生といっぱいくっつきたかった。 なのに・・・。 一向に縮まらない先生との距離。 心は近づいたのに、なんで先生はオレに触れてくれないの? そうしてもやもやしたまま時間だけが過ぎ、発情期が迫ってきた。 もしかしてまた離されちゃうの? 好きなのに。 一緒にいたいのに。 先生は違うの? やっぱり先生はオレのこと・・・。 発情期が近かったためにホルモンバランスが崩れていたのもあるのだろう。 先生の変わらない態度に不安があったオレはさらに焦り、怖くなった。そしてそれが極限に達して、ついに爆発してしまう。 発情のフェロモンが出始めてしまったら、また先生に施設へ行くように言われてしまうかもしれない。 そんなの嫌だ。 『先生はオレのこと好きだって言ってくれたのに、本当は違うの?もっとぎゅっとしてキスして、それからもっと近づいて溶け合いたいって思うのは、オレだけなの?』 感情が高ぶり先生の胸に縋ったのは、この日も普通に別々の寝室に下がろうとした時だった。 『次の発情期もまた、オレを追い出すの・・・?』 限界だった。 好きだって言ってくれたけど、本当は勘違いでそれに先生が気づいちゃったのかもしれない。それともやっぱり、初めから好きが嘘だったのかもしれない。唯一の家族を失ったオレに同情して・・・。 そんな思いが頭の中で駆け巡り、涙が溢れて止まらなかった。なのに先生は縋りついて泣くオレの肩を持って引き剥がす。 やっぱりオレのこと・・・。 そう思って唇を噛み締めた瞬間、先生がすごい勢いでオレに叫ぶ。 『違うんだっ』 いつも穏やかで怒るところを見た事がない。ましてやこんな大きな声で怒鳴りつけるなんて・・・。 驚いたオレの涙は瞬時に止まり、オレは先生を見上げる。 『君はまだ僕の事をよく知らないから・・・勘違いしてるのかも・・・しれない・・・』 最初の勢いはどこへやら。 先生は小さな声で言った。 『君は僕の歳を知っているかい?僕はね、君のお母さんよりも歳上なんだよ』 小さな声でごにょごにょとそう言う先生に、オレは訳がわからない。 なんで急に先生の歳の話になるの?
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