しましま

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「いってらっしゃい」 オレはいつものように天に声をかけると、天がふと振り向いた。 いつもならそのままいってきますと出ていくのに。 「昨日言ってた件だけど、話は通しておいた。急だけどあっちも直ぐに来て欲しいらしく、出来れば今日から顔を出して欲しいとのこと。詳しい時間と場所はスマホに送るから、なにか分からなかったら遠慮なく訊いてくれ」 そう言うと、天はいってきますと言って出ていってしまった。 急なことに返事をしそびれたオレは、閉まるドアをただ見つめ、なんのことかと一瞬考える。けれどすぐに鳴ったスマホに会社の名前と住所、そして時間が記されていたのを見て、昨日言っていたバイトのことだと分かった。 ここから1時間くらいかな?ちゃんと行き方も書いてある。そこに13時に行けということらしい。 会社の名前から、そこがどんな業種なのかは分からないけど、天が行けと言うからにはオレにもできる仕事なのだろう。 とりあえずここに13時ということは・・・。 頭の中で逆算しながら今日の計画を立てる。 そしてできる限りの家事を終え、オレは支度をして家を出た。 初めて降りる駅に、スマホのナビを駆使して会社へと向かう。そして着いた共同ビル。 ここの3階・・・。 エレベーターで3階に上がり、会社のインターフォンを押すと、すぐに開くドア。 「本当にののだ」 ドアが開くなりそう言って出てきた人物を見て、オレも驚く。 「斉藤?」 その顔は高校の時の同級生、斉藤だった。 オメガクラスの中で数少ない勝ち組。アルファの恋人がいた男オメガのクラスメイトだ。 「ふふ、もう斉藤じゃないけどね」 そう言って嬉しそうに左手の薬指を見せる斉藤・・・じゃないのか・・・彼はオレを中に入れてくれた。 「今は浅香だよ。浅香光流(あさかみつる)」 浅香て、確か斉藤のアルファの恋人の名前が浅香だった。天と仲が良くて、いつも天の隣にいた気がする。成績も天の次に良くて、斉藤という恋人がいてもすごく人気があった。 「じゃああのまま・・・」 「うん。(りょう)ちゃんと結婚したんだ。番もね」 そう言って嬉しそうにうなじに手を当てたその姿は、すごく幸せそうだ。 凌・・・確か浅香凌平(りょうへい)だったな。 「そっか。良かったな。おめでとう」 「ありがとう」 それからみつ(本人にそう呼んで欲しいと言われた)は仕事の内容を説明しくれて、出来れば今日から仕事をして欲しいと言う。 「急に社員がおめでた婚で辞めちゃってさ、もう僕一人で大変なんだよ」 本当に大変なのか、心なしか顔が疲れている。 「大丈夫だよ。オレにもできるかな?」 特に用もないし、天にはメッセージを入れておけば大丈夫だろう。 「できるできる。そんなに難しくないから」 そう言ってみつは早速、オレにもできるという仕事の説明を始めた。 この会社はみつのパートナーの浅香が興した会社で、まだ営業二人と事務二人の小さな会社だ。何でも人に使われるのは嫌だと、浅香が大学在学中から一人で始め、その頃から事務を手伝っていたみつが卒業と共にここに就職。軌道に乗って来たところに、浅香の後輩が一人入り、それに伴い事務を一人増やしたのだけど、その事務の子が辞めてしまったのだという。 「急いで募集をかけたんだけど、なかなか希望の子が来なくって」 実はオメガの子を希望してるんだけど、国の方針で特定の性別を募集することができない。オメガが一人もいない場合はオメガ特定で募集できるものの、既にみつがいるのでそれもできず、シンプルに『事務募集』にした結果、来るのはベータの子ばかり。 「ほらここ、昼間は事務だけになっちゃうでしょ?」 昼間オフィスにみつと二人だけになってしまうのを警戒した浅香が、オメガ以外を許さないのだという。 「だけどあんまりにもオメガの子が来なくって、ベータの女の子でもいいか、て妥協しようと思ってたんだけど、そしたらてんちゃんがのの紹介してくれて」 「てんちゃん?」
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