異世界アイドル、世界を救う。

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 ***  とりあえず保護したその少年、名前はリアとと名乗った。正式な本名は“ツユキ・リア”だそうな。彼等の日本という国では、苗字を前に持ってくるのが普通なんだという。  年齢は十七歳。ジャッカルアイドル事務所に所属するアイドルで、現在全国ツアーの真っ最中だったという。歌うことと踊ることと喋ることは大得意だぜ!と彼は笑った。――僕の方が年上だと言ったら冗談だろと大袈裟に驚いたので、一発ひっぱたいてやったが。 「あああああああ、何でだよ、東京ドーム公演のリハーサル中だったのに!このタイミングで異世界転移とかどんだけツイてないの俺ぇ……!」  黒髪釣り目、クールで端正な顔立ち――に反して、なかなか喜怒哀楽の激しい性格であるようだった。僕が用意した応接室のソファーに座り、頭を抱えて完全に沈没している。  そう、僕が予想した通り、彼は異世界からの転移者というものらしかった。  というのも、僕は初めて見るが、過去にはこの国に異世界からの転生・転移者が来たことがあると歴史書には記録されていたからである。僕も歴史の勉強はきっちりしているので知っていた。突然変異のドラゴンを、異世界転生者がチートスキルで倒してくれたとか。あるいは、未開の土地を開拓するのに、スローライフを行うスキルとかを使って手伝ってくれたとか。まあ、そういう話がいろいろとあったのである。  彼が落ちてきたのは、王宮の玉座の間。いくら平和ボケした国であろうと、一番警備がしっかりしている場所であるのは間違いない。天井だって壊れていなかったし、窓も割れていなかった。兵士達もさすがにそこまで気が緩んでいたはずもなし。あんな少年が、何もない空間から降ってくる理由なんて、歴史書にあるような異世界転生・転移くらいしか考えられないのである。  ゆえに、兵士達を宥めて、王様である僕が直々に彼に対応することにしたのだった。ちなみに、流石に一対一で話そうとしたら警備兵たちに死ぬほど反対されたので、この応接室の中もドアの向こうも兵士が二人ずつ見張っている状態であるのだが。 「異世界転移してきた、のは間違いないんだね。ていうか、君もそれを受け入れてるんだ?」  正直、僕も間近で見るまでは本当に異世界があるなんて、と信じられなかったのだけれど。  彼の、煌びやかな銀色の衣装、裾の長いロングスカートのような美しく派手なコート。そして、頭につけていたマイク。それらを総合すれば、やはり異世界から飛んできたとしか思えない。 「アイドル、なんだ?そんなに人気なの、君?」
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