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「あー、人気あるんじゃねえの?全国ツアーさせてもらえるくらいだし、CDも億単位で売れたとか言われたし」
「なんかすごいってことだけはわかった」
「……まあ、そういう反応だよな。うわあ、俺の顔見て無反応な相手を見たの久し振りだわ。ていうか、この国じゃ俺のこと誰も知らないんだもんな?マジ新鮮」
ああ、でも早くリハーサルに戻らないと、と呻く少年。元の世界に帰りたい願望はあるようだが、しかし自分の身の危険なんかを全然感じていないあたり大物なのか能天気なのか。
残念ながら、異世界人についてわかっていることがあまりにも少ない。僕としても簡単に“わかりました帰してあげます”と言うことはできないのだった。ていうか、方法がわからないんだからどうしようもない。
同時に。異世界転生・転移者という存在は過去の歴史上、救世主か災厄のどちらかにしかなりえないらしいということもわかっているのである。ようは、その転生者が人のために尽くすことができる人間ならば救世主になるが、自分の利益だけを追求する身勝手なニンゲンならばチートスキルを振り回す災厄にしかなりえないからだ。
彼がどっちであるにせよ。王国としては、野放しにするわけにはいかないのが実情なのだった。
「……異世界転生・転移者について、僕達も調べるよ。帰る方法があるかどうか。その間、君は王宮に住んでいいってことにする」
「ほんとか!?ありがとう王様!」
「でもその代わり条件がある。君、女神様にチートスキルを貰ったんじゃないのかい?それを、できればこの国の平和のために使って欲しいんだけど」
ここで否、と言われたら。可哀想だが、チートスキルを使って暴走される前に手を打たなければいけないだろう。殺すか、良くても投獄。申し訳ないが見ず知らずの異世界転生者より、この国の人々の安全の方が自分にとっては優先事項なのである。
が、ここで思いがけない事実が発覚した。
「あ、そういえば確かに、女神様が俺になんでもチートスキルをくれるってよくわかんない空間で言われたなあ」
彼はきょとん、とした顔で言った。
「俺、いつでもどこでもマイクが取り出せて、好きな音楽を流せる能力にしてくれって頼んだんだけど。……それ、この国の役に立つの?」
僕はずっこけた。
初めて巡り合った異世界転移者、そのスキルはとんでもないポンコツだったのだ。
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