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トップアイドルだった、というのは本当らしい。
数日も過ぎれば、彼は王の客人というのを越えて王宮内での人気者になっていた。メイドたち、執事たち、兵士達、執政官たち。僕が彼を探すと、いつも彼は王宮の城の中や庭で、誰かしら人に囲まれて楽しそうにお喋りをしているのだった。人の話を聞いたり、人との会話を盛り上げることに天性の資質があるのだろう。単独ライブをやるくらいだ、確かにトーク術もなければやっていけなかったに違いない。というか、本人いわく俳優とかバラエティ番組の司会者もやっていたというから、相当芸能界において万能だったのは間違いないのだろう。
また、トップアイドルとしての本業スキルも非常に高いようだ。そろそろ歌わないと錆びつく!と訴えてくるので、とりあえず地下の特別ホールで口の堅い王族貴族だけを集めて単独ライブをやらせてみたのだが。
それがまあ、この国の歌とはまるで違う曲なのに大盛況。妹からも親戚のおじさんからも“次のライブはいつですか!?”と僕が詰め寄られてしまったほどである。
――そう考えると、結構リアも気の毒だよなあ。この国じゃ、そのスキルのほとんどを生かせないんだろうし。
執務室で書類仕事を片付けながら、僕はちらりとリアの方を見た。今、彼はこの部屋のソファーで本を読んでいる真っ最中である。メイドの女の子に借りたホラー小説がものすごく面白かったらしい。
多分、彼が好かれる理由の一つは、人が好きなものに難でも興味を持つというのもあるのではないか。
「ブラッド、ブラッドー!この本ってお前も読んだことあんのか?」
「今は二人きりだからいいけど、そうじゃない時は王様って呼んでよね。……えっと、そのシリーズは読んだことない。どういう話なの?」
「地下から沸きだしてきたゾンビを、チェーンソーでぶっとばして無双しつつ、暗黒の城に囚われたお姫様を助けようとしたらお姫様は既にハンマーぶん回して自力で脱出してた話?」
「それホラーって言ってなかった!?ねえそれホラーなの!?あとなんで疑問形!?」
ああ、仕事中なのについついツッコミを入れてしまう。まあ、この時期は書類仕事もそんなにないし、世間も平和なものである。仮にリアが何か国防に役立つスキルを持っていたとしても、今すぐ活躍してもらう事態にはならなかったかもしれない。
しかし、僕が暢気にそんなことを考えた瞬間、事件は起きてしまったのだった。
「たたたた、大変です王様!」
何やら手紙のようなものを持って、将校の一人が執務室に駆け込んできたのだった。
「わ、我が国の……ハレテラス祭りにて、テロ予告が!」
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