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まだ、彼の存在を国民に公にするべきかどうか、迷いはあったのである。そもそも、いつまでも王宮に閉じ込めておくのは申し訳ないとは思っていたのだから。
が、こうなった以上背に腹は変えられない。事は一刻を争うのだから。
爆弾が仕掛けられているのは、零番街。なら、一番遠い七番街が良いだろうということになり、彼は車でそこまで移動させられることになった。
七番街は、王都の中ではあまり年収の多くない人々が住んでいるエリアである。零番街の祭りに行けず、祝日も関係なくあくせく働いている人も少なくない。そんな場所に突然王宮の馬車が来たため、その付近に住んでいる人々はだいぶ驚いた様子だった。
「特別なステージとか衣装とか、何もないけど良いの?」
「ああ、ここで良い」
彼は馬車から降ろされると、にやりと笑った。
「俺が歌えばどんなとこでもそこがステージなんだ。見せてやるよ、日本のトップアイドルの実力ってやつをな!」
何でそんなに自信満々なんだろう、と僕は不思議だった。確かに、彼はものすごく歌が上手いしお喋りも上手だ。が、この国では誰も彼の存在なんか知らない。日本ではトップアイドルでも、この国では無名の歌手でしかないのだ。地下ステージを用意して歌わせたときは確かに盛況だったが、そもそもの客は僕が頼んで来て貰った貴族たちである。
いくら無料ライブだとしても。何も知らない人達が、誰も知らない少年の歌に耳を傾けてくれるものだろうか。
「行くぜ!」
しかし、そんな僕の心配はすぐに杞憂だったとわかる。
不思議そうな通行人たちに微笑みかけると、彼は自らのスキルを発動して音楽を鳴らし始めた。そして。
「まずはこの曲、“Step by step!”!」
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