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生まれた日
その、古びた砂時計が、
くるり、と、返された。
さらさらと、砂が流れ落ちる。
僕の足許で時を刻む砂。
この砂がすべて落ちるまで、このからだが溶けなければ、僕の勝ちだ。
☆
底冷えがするここは、朽ち果てる寸前の古い小さな社。
村人から忘れ去られたようなこの場所で、今日、僕は生まれた。
僕を産んだのは、君。
僕は、君の手のひらから生まれた、ちいさな、一羽のゆきうさぎだ。
その手のひらでかたちづくられている最中、とても不思議な気持ちだった。
それまで、世界と一体でしかなかった雪のひとひらを、君は手でそっと押し包み、新しいかたちへとつくり変えていく。次第に確かなものになっていくこのからだの輪郭が、世界と僕とを分断する。
ただの雪のかたまりは、それまでの世界から切り離されて、ただひとつの僕、になった。
ふんわりとまるい雪のからだに、南天の実がふたつ、そっと押し込まれる。それはうさぎの目となる。
南天の両眼を得て、僕は初めてこの世界を「見る」ことができた。
そして、この世界でいちばん初めに見たもの。
ーーそれが君の姿だった。
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