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君の声
黒い髪が、赤い厚手の上着を着た肩にさらさらとこぼれかかる。
寒さで赤く染まるふっくらとした頬の上、まるい大きな目がこちらを見下ろしていた。
まだ幼い、あどけない、人間の少女。
君は僕をその目の位置まで掲げるようにして持ち上げると、ためつすがめつ顔を覗き込んだ。そしてにこりと笑って、なにかをつぶやく。
なんと言っているのだろう。
僕はもらったばかりの赤い目で君を見上げた。
君の手には、細長い緑の葉がある。それが僕の頭に差し込まれた。一枚、二枚。
やわらかな肌合いのその葉は、そうして両の耳となる。大きくて長い、よく聞こえるうさぎの耳に。
風が吹いて、ざわめく木々の気配を感じる。
「だいじょうぶかな、さむくないかな」
そう、初めて見たのが君の姿なら、初めて僕が聞いたのは、そのかそけき、そしていたわりに満ちた、君のやさしい声だった。
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