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賭け
どうして僕がつくられたのか。その理由は判っている。
君にはどうしても叶えたい願い事があった。
――どうか、ママの病気を治してください。
――ママの病気が治るお薬をください。
この社には、いつからかはわからないが、このような言い伝えがある。
社の奥には函がひとつ据えられている。
ちいさな君の両腕でぎりぎり抱え込める大きさの、それの表面には、かつては色鮮やかな意匠が凝らされていたが、今ではかすかにその痕跡を角のあたりに残しているだけだ。
それの天板にはちょうど、境内に植えられた寒椿の葉と同じくらいの大きさの、浅い窪みが彫られている。
そこに椿の葉を一枚敷き、その上にちいさなゆきうさぎを乗せる。
葉にちょこんとうずくまる、幼子の握りこぶしくらいのゆきうさぎを。
その函の正面は観音開きの扉になっている。
それを開くと、中には、重たい曇り硝子でつくられた、大きな砂時計がひとつ、函全体にぴっちりと嵌め込むように収められている。
分厚い硝子は曇天の色に濁り、中の砂もぼんやりとしか見ることができない。
硝子に取り付けられた、小さな木製の取っ手をぐるりと回せば、砂時計は動きだす。
その瞬間、賭けがはじまる。
ーー砂が落ちきるまで、函の上のゆきうさぎが溶けずに残っていれば、それをつくった者の願いは叶う。
この砂時計が終わるのは、およそ一日後。そして今は午後二時だ。外は、雪こそやんでいるものの、日差しは弱く気温も低い。
だから、明日が晴れなければ。なんとか僕は、この姿のまま、持ちこたえることができるかもしれない。
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