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寒椿と熱
君は心配そうな顔で僕を見ている。
「あのね、みーちゃん、あしたまたここにくるけど、それまでひとりでおるすばんできる? さみしくない? こわくない?」
君はそういってそっと僕の頭に触れる。
きっとその科白は、普段ママが君にかける言葉そのままなのだろう。今の君のようなやさしい目をして、君が守りたいママは、娘のことをいつも見つめているのだろう。
どうしても、どうしても叶えてあげたいと思った。その願いを。
幼子の手のひらは熱く、その手で不器用に雪を握りしめてつくられたこのからだは、すでに少しだけ溶けはじめていたけれど。
そして君はなにかを思いついたように外へ飛び出す。すぐに戻ってきたその両手には、寒椿の落ちた花びらが数枚乗っていた。 その花びらを、そっと僕の背中にかける。
「おふとんはね、ちゃんとかけてると、ねてるあいだみーちゃんのこと、おばけから守ってくれるって、ママが言ってた。だからうさぎさんも、おふとんきてれば、もうこわくないよ」
濃い紅色が、僕の肌にうっすらと映り込む。
「じゃあね。またあしたね」
そう言うと、うってかわって神妙な顔で一度僕に手を合わせて、君はきびすを返した。
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