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第1話
ある朝のことだった。俺が寝ていると誰かに縛られていたのは。身動きができなくて、息苦しい。Mの人間には快感に思えるかもしれないが、あいにく俺はMではないために快感とは感じれなかった。
首を動かして周囲を確認すると、影が見えた。よーく目を凝らすと、よく知った顔がそこにあった。
「何かの手違いかもしれないけど、俺縛られてるみたいなんだ。ほどいてくれないか?」
「やっと起きたのね、シュウ」
「どうしたんだ、エリカ」
「ん? なんにもないよ」
「なんにもないんだったら、縛るなんてことしないよな」
「なんにもないよ」
取り合ってくれない。俺の幼馴染であるエリカはどうやら俺の拘束を解く気はないらしい。どうしたものだろうか。朝起きたときに起こる生理現象までに解いてくれるだろうか。それが今の一番の心配事だったりする。それまでに解いてくれないと、布団が大惨事になってしまうだろう。
一刻と限界が近づく中、エリカは楽しそうに話しかける。
「楽しいね、シュウ。今だったらこんなに近くにシュウを感じられる」
縛っている俺の上にまたがり、顔を近づけてくる。もうすぐで呂の口ができそうなくらいに。あといい香りもしてくる。
「俺は楽しくないんだけど。ほどいてくれた方が、俺は楽しいんだけど」
「ダーメ。まだこれを楽しむの」
一体何があったのだろうか。エリカはまるで子猫のように甘えてくる。かわいいのだが、どこか恐怖を覚えてしまうのは何故だろうか。
エリカは楽しそうに笑っていた。もしかしてエリカはこういうプレイが好きなのだろうか。
「フフフ」
「なんか怪しい笑い方なんだけど」
「そうかな?」
「うん」
「じゃあ、どんな笑い方だったら、怪しくないの?」
「え……。どんな笑い方って言われても……」
ハハハッという白い歯を見せて爽やかな笑い方だろうか。個人的にああ言った笑い方は好みではない。見ていると少し嫌悪感がするからだ。「なんだ、リア充アピールか」と思ってしまう。はっきり言ってそんな風にされても、俺はキモイと思う。
となると、どういう笑い方なのだろうか。マズイ。普段そんなところに意識を向けることがないから思いつかない。少なくとも、フフフという笑い方だけは否定しておかなければ。
「……」
「思いつかない感じ?」
「……」
「思いつかないんだね」
「……」
「答えてよ」
「思いつかないんだけど」
「それを私に言われても」
エリカとマジメな顔で見つめ合った。よく分からないがこの話題からは逃れることができそうだ。いつかは「フフフ」以外の怪しくない笑い方を言わないとな。
こんなことをしている間にも俺の限界は近づいてくる。そんなときだった。
「なんかここ、もっこりしてるね」
「……あ。み、みないでくれ! は、はずかしいから!」
俺とエリカの視線の先には、ズボン越しの少し小高くなった山があった。人口ピラミッドで言うと、つりがね型みたいな形だ。って、なに俺は自分のいちもつの状態を解説してんだ!?
「もしかして、私に興奮しちゃってる?」
エリカは俺のエクスカリバーに触れようとする。マズイ!
「や、やめてくれ! 今、触られたら、大洪水が起きてしまう!」
「キャッ!?」
火事場の馬鹿力というものなのだろうか。想像以上の力が出て、俺は上にまたがっていたエリカをどかし、縛っていた紐をちぎって、トイレに駆け込んだ。
なんとか間に合ったことをほっとして部屋に戻ると、エリカがなにか嬉しそうに笑っていた。
「シュウ、今からエッチなことしよっか?」
「……」
「だって、さっきおっきくなってたもん。今、そういう気分ってことでしょ?」
さも俺がそういう気分であることが当然という風にエリカは話す。だが、俺にも譲れないものがある。
「あれは朝立ちだ! 決してエロい気分ってわけじゃない!」
「そうなの?」
「そうだ」
第一、寝起きの状態で「準備満タン! いつでもいけます!」という人のほうが少ないと思う。あと、そんな状態で行為をするのは無責任だと思うし危険だと思う。
「んー、もう。私はシュウとならエッチなことしてもいいと思ってるんだけどなー」
「そうやって頬をふくらませても、ダメなものはダメだ。そういうのはちゃんと責任を取れる心の余裕、経済力、とかいろいろ兼ね備えてからだ」
「もー。やっぱりシュウってマジメ」
「当たり前だ」
「でも、そういうシュウのマジメなとろこ、私は好き」と嬉しそうに言う。こんなとき俺はどうすればいいのだろうか。ただ俺にはそのシチュエーション治に何をすればいいのかはわからない。
だから「ほらはやく朝ごはんを食べて一日の活動を開始するぞ」と布団で寝ようとしているエリカを制することしかできなかった。
「んー、私、眠いからちょっと寝てもいい?」
俺の制しは流されて、エリカは布団にくるまって完全に寝る前にくつろいでいる体勢になっていた。上目遣いで寝させてと目で訴えかけてくる。なんだろう。エリカが甘えん坊さんだ。
「なんで甘えん坊さんに?」
ふんわりとした言い方が思いつかなかったからストレートに聞く。するとエリカは少し恥ずかしそうに「シュウとなら新しい関係にもなってもいいかなって思ったから」と言った。真顔で俺は見つめ返すしかなかった。なんとなく以前からエリカの好意には気が付いていかが、改めてエリカの口から言われると、体がかたまってしまう。
照れ隠しかエリカは布団を頭からかぶり、ちょこっとだけ顔を出した。
「どうかな、シュウ?」
俺はエリカの言葉を反芻する。
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