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突然のファーストキス
なんで口を開けたままなのかと岡田が思っていたら、植草は口を閉じて唾を飲み込んだ。
植草の喉仏が上下した。学校でも、互いの部屋でも見てきた、喉仏だ。
いつにもまして、ゆっくり大きく動いたような気がした。喉仏が大きく見えるのは、いつもよりも顔が近いからだ。
そう思っていたら……。
「植草……?」
植草の手から、アトマイザーが滑り落ちる。
優しく両肩をつかまれた。
あまりにも自然な動作だったから、顔に糸くずでもついていて払ってくれるのかと岡田は思った。
(これは、ちがうのかな……?)
そう気づいたのは、顎に手を添えられたのときだった。
確信に変わったのは、植草が目を閉じて、顔を軽く傾けたときだ。
植草の顔が迫ってくる。岡田の焦点が合わないほど。
岡田は目を閉じた。顔を寄せられると、人は反射的に目を閉じてしまうんだなと頭の片隅で思った。
植草が、キスしてきた。ただ、唇を押しつけるだけのキス。
植草の動きは流れるようだった。
いま自分たちは、キスを交わす空気だっただろうか。
植草のくちづけを受け入れながら、岡田はぼんやり考えた。
誰とも付き合ったことがない岡田には、甘い雰囲気なんてさっぱりわからない。
植草の部屋でおしゃべりしたことは何度もある。
今日はいつもとちがう会話をしていただろうか。さっきまでのやりとりを、思い起こそうとした。
でも、できなかった。
「ん……」
ふれあったところから伝わってくる植草の温もりに耐えられなくて、岡田は唇を開いた。
植草の舌が入り込んでくる。
軽く、先端だけ。びっくりして口を更に開けたので、深い侵入を許してしまった。
「……や、や……ん……ん……」
予期していなかった刺激に、体が震えてしまう。アトマイザーを手から落とした。
経験したことのない心地よさが襲ってくる。突然のキスに怒ってもいいのに、どうしようもなく胸が高鳴ってくる。
いやがる声が出すが、離さないでくれ、離さないでくれと体は訴えていた。
ゆっくり体を押し倒された。
キスはやまない。心臓が痛くて、苦しい。
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