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初めての愛撫
甘く痺れるような火照りが、体の底から沸き起こる。
植草が与えてくれた快感が、岡田の細胞に染み渡って、醒めない熱となって発火したようだった。
不意に、服の上から体を撫でられた。植草の手は熱を帯びていた。
体の輪郭をたどり、布越しに肌をあたためるように手を滑らせていく。
こんな触りかた、友人にするだろうか。いや、友人なら、キスだってしないはずだ。
初めての愛撫に戸惑い身を捩ると、互いの服が擦れる音が聞こえる。植草は更に体を密着させ、足を絡めてきた。
偶然開いた岡田の足のあいだに、腿を滑り込ませてきた。
「……ん、あぁ……あ」
岡田の吐息混じりの声は、明らかに愛されて感じている反応だった。
「ん、ん……うえく、さ……」
突然、植草の顔が離れた。床に手をついたまま、岡田を見下ろしている。
ゆっくり、ゆっくりと、植草は手を伸ばしてきた。岡田の頬にふれる。
植草の手が、震えている。
「なんで、こんなことに……」
驚いた顔をしている。
自分からキスしたのに。自分からふれてきたのに。
「……岡田くん、ごめん」
「……大丈夫だよ、だ、大丈夫だから……これくらい……」
岡田は、それしか返せなかった。
どんな返事をしたらいいかわからず、「これくらい」なんて、経験があるような言葉を返してしまった。
植草とのキスは、いやではなかった。いやではなかったけれど、自分の服を整えようとした岡田の手も震えていた。
どうしてこんなことになったかわからない。
「本当にごめん……キスしたい、キスしなくちゃいけないって思ったんだ……この匂いのせいかな」
独り言のようにつぶやいて、植草は立ち上がった。部屋の窓を開ける。
からっとした風が入ってきて、部屋の香りは消えていく。
「やっぱりそうかもしれない。頭がすっきりしてきた」
植草は岡田に背を向けて、窓の景色を眺めている。岡田は体を起こした。
植草の肩越しに、木々が見えた。
夏の青葉は色濃く、夕日に照らされてまぶしかった。
岡田は、奈良の言葉を思い出した。
『おじさんは、兄ちゃんの初恋に力を貸したいだけ』
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