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責任を取る
言われたことの意味が、岡田にはわかった。香りのおかげで強制的に怪しい雰囲気になっても、ありがたいとは思わなかった。
「植草……ごめん。俺が持ってきたアトマイザーのせいで、変なことになっちゃって……」
「いや。僕の方こそ、いきなりキスして悪かった」
振り返った植草の顔は、赤面していた。唇を噛み締めて、しばらく考えている。
やがて、はっきりとした声で言った。
「こうなったら、責任を取る」
「せ、責任?」
「初めてだったんだろ、キス」
「うん……」
「まあ、僕もしたことなかったけど」
植草は眉根を寄せて、眼鏡を押し上げる。
「ファーストキスが事故なんて、いやな体験だろ。ときめくようなシチュエーションで、またキスをしよう」
「え……」
(つまり、キスのやり直しをする……のか?)
植草はまじめな顔で言っているけれど、よけい変な状況に陥ってはいないだろうか。
岡田がどう返したらいいかわからずにいると、植草が近くに座った。そばに置いてあった自分のスマホを取る。
「ファーストキス、シチュエーション、理想的、で検索っと」
「本当にするのか!?」
「もちろん。岡田くん。さっき、僕としたキスは、準備運動だと思ってほしい」
「準備運動って、なんの……」
「最高のファーストキスをするための。僕はそんなに派手な恋愛経験をするつもりはないから、一回、一回を思い出深いものにしたい。岡田くんもキスするなら、いいキスの方がいいだろ?」
「キスにいいのとか、悪いのとか、あるのかな……」
「何回かしたらわかるんじゃないか」
「え。俺たち、何回もするの?」
「初めは試行錯誤だから、何度も挑戦することになるかもしれない」
植草とまたキスできる。今度は事故ではない。
(それはうれしいけど、なんか変というか、ちがうような……)
植草は真剣な表情で、スマホをスクロールさせている。
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