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初めて聴く男らしい声
「植草。気持ちはうれしいけどさ。おかしくないか。恋人同士でもないのにキスするなんて……」
「岡田くんは恋人とキスしたいのか。じゃあ、なろう。恋人に」
「へっ!?」
思わず大声が出た。階下で仕事をしている植草の父親に聴こえそうなくらいだ。
「な、な、なんて言ったんだ?」
「恋人になろう」
「誰が?」
「僕が」
「誰の?」
「岡田くんの」
「ちょっと、待て。落ち着け、植草」
岡田は植草を見つめた。
植草は、香水のせいで妙なことを考えているのかもしれない。しかし、窓は開けっぱなしで換気されている。
植草は真剣な表情だ。
「植草……恋人になるなんて、それはさすがに……。キスしたくてした訳じゃないんだから。このままなかったことにして、明日からまた普通の友達に……」
「友達に戻れる訳ないだろ」
植草は振り絞ったような声を出した。どこか苦しくて、つらそうな顔だった。
「あんな……きみの気持ちよさそうな声を聴いて、恥ずかしそうな顔を目の前で見たら……偶然キスしただけなのに、あんな風になるんなら……」
植草に頬を撫でられた。今度は植草の手は震えていなかった。
「もっといいキスをしたら、きみは、もっといい顔を僕に見せてくれるはずだ。きみが好きかまだよくわからないのに、感じる顔を見たいなんて……自分でもおかしいってわかってる」
植草の顔が近づいてきた。
岡田の頬に唇がふれそうな距離で止まり、そのまま耳元にささやく。
「もっと、きみにふれたい。きみ自身が知らないきみを、僕は見つけたい」
初めて聴く、植草の、低く男らしい声に、岡田は身を震わせた。緊張で手を握り締めていたら、植草が手をかさねてきた。
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