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猫大好きな植草の部屋
「あちゃあ、そのアトマイザー、消費期限が明日だったわ! 期限を過ぎたら、香りが飛んでしまう!」
ぽん、とわざとらしく、奈良は自分の額を叩く。
「というわけで、兄ちゃん。今日中に渡すんだよ。今日中にね?」
「は、はい……」
肩をがっちりつかまれて、岡田は従うしかなかった。
――――――――――
スマホで植草に連絡すると、自宅にいるらしい。
岡田は植草の家に向かった。植草は理髪店の二階に、両親と共に暮らしている。
「岡田くん、いらっしゃい。今月は、三毛猫のももちゃんと、シャム猫のクレアちゃん、キジトラのレオくんだよ!」
植草が寝起きする部屋の三方の壁には、A0版サイズの猫のポスターが白いフレームに入って飾られている。
八月八日『世界猫の日』に行われる、世界猫写真展限定のポスターだ。植草は毎年、全十五種類を事前通販で購入している。
植草を見守る三匹の猫は、毎月入れ替わる。
「へえ。みんな、カメラ目線の仔にしたんだ。どこを見ても目が合うって、いいな」
「だろ!」
唯一飾られていないのは、ドアがある壁だ。
前はここにもポスターを飾っていたらしい。しかし遅刻しそうになったある朝、ドアが一瞬わからなくて焦ったそうだ。
ベッドサイドには、抽選で当たった非売品の配達業マスコットの猫のぬいぐるみ。
SNSのリツイートで応募できるプレゼントキャンペーンだった。岡田は協力しようとしたが、植草は拒んだ。
『ひとり一回というルールを破って当選しても、僕は嬉しくない』
当選したぬいぐるみを見る度に、植草が不正を断ってくれてよかったと岡田は思う。
「愛猫堂は行ったことないなあ。この前、コンビニアイスが限定で猫パッケージになったんだよ。それを買いすぎちゃって」
「バイト禁止の高校生はつらいよなあ」
「おこづかいを堂々と親からもらえるから、ありがたい校則なんだけどな」
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