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『2022年8月5日 金曜日。
今日で、セミさんが地上に出てきてから六日目。セミさんは、明日までしか生きることができません。
命って、何なのでしょうか。
セミさんは、今日も何度も飛ぼうとして、何度もうまくいかなくて地面に落ちてしまっています。落ちるたび、ひめいが上がります。とても痛そうです。
どうしてそんなにがんばるのでしょう。
がんばった先に、何があるのでしょう。
誰かがほめてくれるわけでもないのに、認めてくれるわけでもないのに、世界のヒーローになれるわけでもないのに、どうして?
私が尋ねると、男の子は言いました。
「自分で、やるって決めたからやるんだよ。そこでやめちゃったら、ぼくは、ぼくにウソをついちゃったことになる。それだけはだめだ」
「どうして?」
「自分との、約束をやぶることになるからさ」
セミさんがそこまでがんばる理由が、私にはわかりません。
でも、いっしょうけんめいがんばって、何かを達成しようとする人はとてもかっこいいなと思いました。
私は、そこまでがんばったことがあったでしょうか。
水泳のスクールもいやになってやめちゃったし、かけっこの練習もやめちゃった。どうせがんばっても勝てないなら、がんばってもいみがないって、かっこわるいだけだって。
でも、そんなことなかった。
本当にかっこわるいのは、がんばることもしないのに、がんばる人を笑う人なんだと気が付いたのです。
「がんばって、セミさん!」
気が付いたら、私はおうえんの声を出していました。
セミさんの体が、ふわっとうきあがるのを見ました』
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