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『2022年8月6日 土曜日。
今日が、セミさんの最期の日だそうです。
セミさんは、なんだかとてもつらそうです。もうすぐ命がなくなってしまうとわかっているのに、いっしょうけんめい鳴く練習をしています。
私は、セミさんとお別れしたくないです。でも、命はみんな、いつか消えるから。それを受け止めて、前に進まないといけないのでしょうか。
私にはよくわかりません。
まだ小学生なので、そんなに強くなれません。
大人になったら、それを受け止めて、泣いたりしないで強くなれるのでしょうか。
「がんばって、セミさん」
私は公園で、おうえんを続けました。
「だいじょうぶ、セミさんの声は、ちゃんと私には聞こえてるから」
「ありがとう、エミちゃん。君の声も、ぼくにちゃんと聞こえてるよ」
夕焼けがきれいな日でした。
セミさんの体が、ふわっと浮かび上がりました。そして、はばたきながら、じじじじじじ、と鳴き始めたのです。
他のセミさんと比べると、小さな声でした。でも、確かに、私にはちゃんと聞こえていたのです。
そして、セミさんは私の上に落ちてきました。最初に出会った時と同じように。
その体は、セミのぬけがらと同じように軽くて、受け止めたしゅんかんにパラパラと崩れてなくなってしまいました。
命ってなんなんでしょう。
七日間しか生きられないなんて、とても悲しいです。それでも、私はちゃんと覚えていたら、その意味は未来につながるのでしょうか。
私の命も、いつか、別の誰かが未来につなげてくれるのでしょうか。
ちょっとまたなみだが出てきてしまったので、まだ書きたいことはあったけど、今日の日記はここまでにします。
セミさん。とても大切なことを教えてくれて、ありがとう。
私はぜったい、大人になってもわすれないからね』
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