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生徒会副会長というポジションに不満はない。
表に出るのは会長だから、特別何をするかと聞かれると、会長のサポートをすると答えるだけだ。高校三年生の前期。後半焦らないためにも、勉強に専念したいし、同時に部活動にも顔を出したい。
俺にとって〝副会長〟は大学進学のためのポイント稼ぎでしかない。
端的に言ってしまえば、楽をして推薦枠を狙いたかったのだ。
ともあれ、最初は気乗りしなかった。二年生も終わりに近づいた頃の、来年度の生徒会選挙。小学校でも中学校でもクラス委員や生徒会を任されやすかった。自薦ではなく、あくまで他薦である。俺は誰の目から見ても生真面目な男だからだ。
俺は中学三年のとき、ある男とけんかをして今まで築いてきた関係を壊してしまった。そのある男が自分の隣にいる事実が、俺を過去へと引き戻そうとする。
そう、生徒会副会長というポジションに不満はない。
「陸、来月の朝礼での挨拶文なんだけど――」
「わざわざ俺に見せなくてもいいだろう、会長」
「その〝会長〟っての、他人行儀みたいだからやめてくれって言ってるじゃないか」
「会長は会長だろう?」
「そうだけど。そうだけど、せめてこうして一対一で話し合うときくらいは昔みたいに呼んでほしい」
「……わかったよ、和美」
和美。
石原和美。
俺こと工藤陸にとっての唯一の不満は、かつて仲たがいした男が同じ高校に通い、同じ生徒会に所属してしまったことだ。
和美とは小学校からの友人だった。名は体を表すように、初めて会ったとき、和美は女の子だと思っていた。時として子供は残酷であり、男なのに女のようだとからかわれることが日常茶飯事だったと、友人と呼べる付き合いになったときに訊いたことがあった。
和実もまた俺と同じようにクラス委員や生徒会に任されやすいタイプだ。和美は引っ込み思案な面もあるが、基本的に誰に対しても優しく、誠実な人間だった。
俺に対してもずっとそうだと、当時の俺は疑いもしなかった。
「……陸は進路決まってるの?」
「国公立で推薦取れるならどこでも」
「そう。僕も推薦ほしいけど、今の成績じゃ厳しいらしい」
「お前が成績悪いって言ったら他のやつらがブチ切れるぞ」
「そう?」
「偏差値あって、生徒会長やって、ボランティア活動にも熱心。非の打ち所がないじゃないか」
「……僕も陸と同じ大学目指そうかな」
「お前が?」
「僕、どこの大学にしようか決めていないんだ。国公立か私立かだけじゃなくて、特別学びたい分野もないし……。みんなが進学するから大学くらい行かなきゃなあって思っているだけで。陸の前でこんなこと話すのは失礼だけど、目標がある君が心底羨ましいよ」
まったく失礼極まりない。俺は軽く相づちを打ち、それ以上の会話を避けた。俺だけがぎくしゃくして、当人である和美は何事もなかったかのように俺に話しかける。生徒会という枠組みを超えたプライベートな話題まで。
それともあれから三年近く経とうとも、いまだに根に持っている俺が悪いのだろうか。
和美の笑顔は昔と変わらないが、俺は彼の言動を素直に受け入れられるほど大人じゃなかった。
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