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傍でじっと澪実を見ていた拓真が、おめでとうと囁いた。
「拓真くん、あのね」
「ん。何だ」
「泣いていいかな」
拓真の顔もくしゃっと崩れる。
「外に行こうか。ここじゃまずい」
手を繋いで店を出た。嬉し涙は流れるままにして、近くの公園の木の陰まで歩いていく。
「拓真くん。あのね」
「うん。どうした?」
「舞奈にも言われたけれど、私は家族や友人からも甘やかされて、みんなの好意や夢を与えられるだけの受け身の人間だったと思うの」
「愛される性格だったんだ。俺は前の澪実も可愛くて好きだったよ」
「ありがとう。でも、強くなった私のことも、す、すきでいてね」
拓真がとろけるように笑って、大きく頷く。
「私ね、今までは手で何かを生み出せる拓真くんや、すみれや、颯太くんが羨ましかった。少しずつ強くなったと自覚しても、どこかで何もできない自分にコンプレックスを抱いていたような気がする。でも、今回の企画で夢を与える喜びを知ったの。手で作りだせなくても、私にも誰かを幸せにできることが分かって、嬉しくて……」
「それで、泣けてきたんだな」
うん、と頷く澪実は、まだ感動の中に漂っていて、心がほんの少しのことに反応してしまい、すぐに涙が出る。頬に流れる涙を、拓真の指が拭った。
そんなに優しい目で見て、そっと触れられたら、余計に泣きたくなるのに。
「拓真君。あのね……」
拓真が笑いながら、なんだと聞く。
「これからも、一緒に夢を売って、みんなの幸せな笑顔をみようね。拓真君、あのね……大好き」
拓真の顔から笑顔が消えて、切なげな表情に変わった。木々の枝から射す光が、拓真の顔で遮られる。目を閉じた澪実の唇に、そっと微かに触れたぬくもりが眩かった。
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